クルクス反攻で苦境に陥ったプーチン大統領 戦勝計画をアメリカに迫るゼレンスキー

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なぜウクライナは、この解禁を第1項目として求めるのか。それは、現在ウクライナ市民の大勢に犠牲者を出している誘導滑空弾によるロシア空軍の攻撃を食い止めることが当面、喫緊の課題だからだ。

ロシア軍はウクライナとの国境から離れた空軍基地を出撃した戦闘機から滑空誘導弾を落とす。射程50キロメートル程度で高速で落下してくる滑空弾の迎撃は困難で、ウクライナとしては基地を攻撃し、戦闘機などを破壊する以外に打つ手はないと考えている。言い換えれば、飛んでくる弓矢を落とすのではなく、弓の射手を攻撃する戦略だ。

ウクライナ軍としては、この基地攻撃用に射程約300キロメートルのアメリカ製地対地ミサイル「ATACMS」やイギリス製巡航ミサイル「ストームシャドー」(射程250キロメートル超)を使用することを想定している。

しかし、ロシアとのエスカレーションを恐れるバイデン大統領はATACMSだけでなく、アメリカ製部品を使用しているストームシャドーについても使用を禁止している。

長距離射程兵器の使用を迫るゼレンスキー

直前に使用解禁での合意説も出ていた、先のワシントンでの米英首脳会談でも、結局解禁の発表はなかった。

このためゼレンスキー氏はさらに強い決意をもって、バイデン氏との会談に臨む構えだ。解禁がなければ、ロシアとの戦争で勝てないと必死に訴える構えと言われている。

これに対し、再選を断念し2025年1月で任期が切れるバイデン氏がどんな対応を示すのか注目される。

もしバイデン氏が使用禁止を解除した場合、ロシアにとって、軍事的に相当の打撃となることは間違いない。米欧製ミサイルが空軍基地を目指してロシア領奥地まで飛び交うことになれば、プーチン氏の国内での権威も丸つぶれになるだろう。

軍事的狙いに加えて、ここにこそ、ゼレンスキー氏の政治的意図があるとみる。厭戦気分がロシア軍内部にも広がり、侵攻停止を求める声が出る事態を狙っているのではないか。長引く侵攻の中、ロシア軍内部での反乱の動きを懸念していると言われるプーチン氏がこの首脳会談を注視しているのは間違いないだろう。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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