「マジモバ」でドン・キホーテが示す格安SIMの個性 異業種コラボで市場は新たな展開を見せている

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店頭でSIMを販売するスタッフは当初はエックスモバイルが派遣する。研修を実施してドン・キホーテのスタッフも販売現場に投入する方針だ(筆者撮影)

このアプローチは、通信業界への本格参入というよりは、PPIHのアプリ「majica」ユーザー向けの顧客サービスの一環としての位置づけだ。PPIHの上席執行役員、森谷氏は「利益重視の新事業ではなく、お客様との継続的な接点を作り出すためのCRMの装置と捉えている」と説明している。

小売業ではイオンモバイルが自社でMVNOとして展開し、スマホと回線を販売している例もあるが、PPIHはそこまで踏み込まず、サービス運営はエックスモバイルに委託する形で行われている。

格安SIM事業は、収益性の面で課題を抱えている。その主な理由として、大手キャリアから回線を借りる仕入れコストの高さが挙げられる。この費用は年々逓減傾向にあるものの、依然として収益を圧迫する要因となっている。

加えて、格安SIM市場は激しい価格競争に陥りやすく、顧客獲得のために常に低価格を維持する必要があるため、結果として利益率が低くなる傾向にある。さらに、自社で通信インフラを持たないため、サービスの差別化が難しい点も課題だ。品質向上や独自の付加価値をつけにくく、価格以外での競争力を持ちづらい状況にある。

既存ビジネスと連携するMVNOが生き残る?

PPIHの今回の動きは、小売業界における新たな顧客獲得戦略の一つとして注目される。通信サービスという新たな切り口で顧客との接点を増やし、既存の小売事業とのシナジーを模索する試みだ。一方で、格安SIM市場の厳しい競争環境や収益性の課題を踏まえると自然なアプローチと言えそうだ。

この「既存事業と連携したMVNO戦略」は、実はPPIHに限った動きではない。旅行業界大手のHISグループも、同様の取り組みを始めている。HIS mobileは9月5日、新たなプランを発表した。このプランは、単なる通信サービスの提供にとどまらず、HISグループの強みを活かした特典を付与することで差別化を図っている。

具体的には、ハワイのトロリー乗り放題パスの無料提供など、MVNOの月額料金以上の価値があるサービスを特典として用意しているのが特徴だ。これは、HISグループが既に保有している観光資源やサービスを、新たな形で顧客に提供する試みと言える。HISモバイルは、こうした戦略を通じてHISグループの新たな顧客接点を生むMVNOとして、事業を加速しようとしている。

HISモバイルの社長、猪腰英知氏(筆者撮影)

将来的には、HISモバイルのユーザー限定で、通常より安価に観光サービスを提供するなど、新たな顧客接点として活用したい考えだ。旅行と小売りと業界は異なるものの、既存事業とMVNOを連携させ、新たな顧客価値を創出しようとする戦略は似通っている。

このように、既存ビジネスと連携するMVNOの登場は、通信業界だけでなく、小売や旅行など他の業界にも波及し始めている。今後、こうした異業種からのMVNO参入がさらに増加し、業界の構造を変える可能性もある。通信事業者としての収益性よりも、本業とのシナジーを重視する“異業種MVNO”は、格安SIM市場の競争環境を大きく変化させる要因となりそうだ。

石井 徹 モバイル・ITライター

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いしい とおる / Toru Ishii

1990年生まれ。神奈川県出身。専修大学法学部卒業。携帯電話専門媒体で記者としてのキャリアをスタート。フリーランス転身後、スマートフォン、AI、自動運転など最新テクノロジーの動向を幅広く取材している。Xアカウント:@ishiit_aroka

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