「富山の祭り」資金対策"80万円の観覧席"の満足度 20万人が見物、300年の歴史ある「おわら風の盆」

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八尾のおわらは、唄も踊りもきわめて洗練されていることから「芸術民謡」とも言われるが、なぜ、飛騨山脈の麓の小さな町に、これほどまでに洗練された踊りが継承されているのか。おわら風の盆行事運営委員会演技部会長の橘賢美さんは、次のように話す。

「八尾はもともと和紙と養蚕で栄え、富山藩の御納戸所(おなんどどころ=財政蔵)とされた。だが、町方があまりに財力を蓄えすぎると、藩にとって都合が悪い。八尾には5月3日に行われる、京都の祇園祭にも似た越中八尾曳山祭もあるが、こうした豪華な祭りは、各町にお金を使わせるための藩の政策だったのではないか」

このように富山藩の財政を支えるほどに繁栄した八尾には、「上方や江戸の清元、常磐津(ときわづ)、都々逸(どどいつ)、浄瑠璃、謡曲など芸事をたしなむ達人が多くあり、一家に一棹三味線があった」(「おわら風の盆公式ガイドブック」)という。こうした文化的な成熟が、「芸術民謡」を生む下地になったのだ。

特別ステージ
八尾曳山展示館で実施の特別ステージの鑑賞や特別弁当などがセットになったプランも販売された(筆者撮影)

ただし、橘さんによれば、いま我々が見る唄と踊りの形が完成したのは、そんなに昔の話ではないという。

「明治・大正の頃のおわら節は、もっとテンポが早く、女性が1人唄い始めると、これに続いて合唱するようなにぎやかなものだった。それが昭和初期に、今の『新踊り』と呼ばれる振り付けが完成すると、早いテンポでは踊りきれないし、よさが出ないということで、ゆったりとした、ちょうど人間の心拍数(1分間に60回前後)と同じくらいの心地よいテンポになった」

法被は1着30数万円

このような財力を背景に成立した伝統ある祭りを継承していくには、費用の面での苦労も多いだろうと想像されるが、実際はどうなのか。

「一番値が張るのが、男衆が身につけている、各町の町紋を背中にあしらった法被だ。正絹(しょうけん=100%絹糸を使って織られた生地)を使っているので、染代も含めると1着30数万円はする。しかし、残暑の厳しい時期に踊れば汗だくになるので、せいぜい長持ちしても10年くらいで作り替えなければならない」(橘さん)

衣装の作り替えのための費用は、各町ごとに月々、町内会費のような形で徴収し、基金として貯めておくが、足りない分は各家に負担をお願いするという。また、衣装だけでなく地方(じかた)が使う楽器も、当然のことながらいいものを使っている。

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