「死が目前に迫った人」の話に、どう耳を傾けるか 相手の気持ちを100%理解できなくてもいい

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ちなみに私は、患者さんの話を聴く際には、相手の話すテンポを大切にします。適度にあいづちを打ち、ときおり相手の表情をうかがうことも心がけています。いずれも、患者さんに安心して話していただくためです。

さらに、患者さんには忙しそうな様子を見せず、できるだけのんびりゆったりと構えます。苦しんでいる人は、誰にでも苦しみを打ち明けるわけではありません。自分の苦しみをわかってくれそうな人、言葉を変えると「暇そうな人」を選びます。

ですから、苦しみを抱えている人がいたら、できるだけ「この人、暇そうだな。こちらから声をかけてみようかな」と思ってもらえるような雰囲気を作ります。

何より大切なのは「苦しみ」を共に味わうこと

なお、話を丁寧に聴き、相手の伝えたいメッセージをキャッチできたら、言葉にして、相手に返しましょう。もし、その内容があっていたら、相手は「そうなんです!」と頷いてくれるはずです。

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たとえば、誰かが「この前、仕事でミスをしてしまった」と話していたら、私なら「この前、仕事でミスをしてしまったのですね」とまずは反復します。肯定も否定もせず、「馬鹿だなあ」などと言ったり、「どんなミス?」と尋ねたり、「他で挽回すればいいよ」と励ましたりもしません。ただただ、相手の言葉を丁寧に反復します。

すると、必ず相手のほうから「電話1本かけて確認しておけばよかった」と、具体的な話をしてくるはずです。このときも、「そうか、確認しなかったのがいけなかったと思ってるんだね」と、相手の気持ちを認めるようにします。

やがて、相手の口から「そうそう!」「そうなんです!」といった言葉が飛び出し、口数が一気に増えます。それが、相手がこちらを「自分の理解者である」と認めたサインです。

苦しみを抱えた人を前にすると、つい良いことを言ったりアドバイスしたりしたくなるかもしれません。しかし、苦しんでいる人は、ただ「相手が、自分の苦しみをわかってくれている」と思えるだけで、気持ちが落ち着くのです。

相手の話を丁寧に聴き、反復すること。相手の苦しみを、共に味わうこと。それが何よりも大切だと、私は思います。

小澤 竹俊 医師

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おざわ たけとし / Taketoshi Ozawa

1963年東京生まれ。1987年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。1991年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、1994年より横浜甦生病院ホスピス病棟に務め、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3800人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書に『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』(アスコム)がある。

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