NHK「受信料バブル」から1000億円削減への不安 「中国籍スタッフの不適切発言」はなぜ起きた

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(表:「NHK経営計画 24年度-26年度」より)

そして稲葉会長の下でこの春、2024年度から3カ年の経営計画が発表された。2023年度に続いて毎年赤字という前代未聞の計画だ。受信料収入の下降トレンドは止まらず、それに対応すべく2027年度までに1000億円も支出を減らすという。6000億円規模の事業体がたった数年間で6分の1も費用を減らすのだ。「受信料バブル」を逆転させるような話だ。普通に考えればあちこちの事業を強引に縮小するだろう。それが各所でガタガタと摩擦を引き起こすはずだ。

ラジオ国際放送の大不祥事は、今後各部門で起こる軋轢の発端かもしれない。岩田氏が言うように、費用削減の影響が及んでの失態と見ていいだろう。国際放送は見直しを図って二度と起きないような策を講じたとしても、似たような不祥事があちこちで起きる可能性がある。

現在のNHK執行部は1000億円の支出削減にビジョンを持って対処できていないのではないか。少なくとも、支出削減にあたり組織をこう変えるとの発表はないようだ。

ラジオ国際放送でもチェックの曖昧さが指摘された。NHKの信頼性を担保しているのは、何重ものチェック体制だ。予算削減で各所の人材が減らされたり外注が増えたりすると、これまでの万全のチェック体制は崩れるだろう。事業の6分の1を縮小するためには大きく考え方を変える必要があるが、生真面目で不器用な人々の集合であるNHKが果たしてシステマティックに変えられるか、はなはだ心もとない。視聴者へのサービスの低下は免れないのではないか。

現在の執行部は前田前会長に疎まれていた一派が中枢を握ったともいわれる。彼らは「旧前田派の粛清」を次々に行っていると関係者は言う。例えば2023年10月に社会部記者の経費の不正請求が明るみになった際も、12月になって歴代社会部幹部を処分しており、「社会部潰し」だと言う人もいる。

公共メディアから公共放送に後戻り

「粛清」という言葉が飛び交うあたり、どこかの国の独裁政権かと言いたくなる。そんな組織が「公共メディア」を担っていいのだろうか。いや、NHKの経営計画では「公共放送(メディア)」と表記され、いつの間にか公共メディアから公共放送に後戻りしている。2010年代後半にNHKは「公共メディアを目指す」と公式にアナウンスしていたのだが、それを何の説明もなく平気でひっくり返したのだ。

1000億円の削減は、これから数年間NHKに地滑りのように襲いかかることになる。執行部がしっかりしなければ、あちこちで今回の不祥事に続く失態が起こりかねない。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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