パワフルに「格差是正」するのは所得税か消費税か 岸田首相が避けた「税制論議」新首相はどうする

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高所得者に高い率の所得税を課せば所得格差ができるというのは、幻想に近い。高所得者への課税を5%上げたとしても1000億円単位の税収しか上がらない。高所得の人数が少ないためにこれだけの税収しか上がらず、それでは低所得者への負担軽減はほとんどできない。

他方、消費税は格差是正のためにはパワフルだ。消費税は、高所得者が多く負担する。現役世代だけでなく高齢世代も負担する。例えば、消費税率を3%上げると8兆円近くの税収が入る。これで低所得者にだけ10万円の社会保険料負担軽減なり給付なりを追加で行うことは容易にできる。

もちろん、消費増税に伴う低所得者の負担増は無視できない。しかし、負担増を上回る社会保険料負担軽減なり給付なりが可能である。

消費増税と負担軽減・給付の組み合わせ

現に、低所得者が払う消費税は年に10万円程度である。今から消費税率を3%上げると低所得者の3万円ほど税負担が増えるが、その増収分で10万円の社会保険料負担軽減なり給付なりをすると、実質的には7万円手取りの収入が増えることになる。

所得税で累進課税を強化するよりも、消費税と給付の組み合わせのほうが、所得格差是正にはパワフルなのである。所得格差の是正は、所得税だけで解決できるものではない点に留意が必要だろう。

消費税は国民に不人気な税であるが、政治家は、こうした議論に対して、賛否はともかく、議論を避け続けていては、今の仕組みの矛盾はまったく解消されない。新首相は、税制について思考停止にならず、国民的な議論を積極的に喚起すべきである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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