アマゾンの動画配信は、掟破りの「実質無料」 日本市場で王者ネットフリックスと激突

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取材に応じるティム・レスリー副社長

「プライム・ビデオは幅広いコンテンツを取り揃えてスタートするため、多くの人が満足できると思う。まだ数字については開示できないが、幅広い品揃えこそ、アマゾンがもっとも重視していることであり、そこは妥協していない」と米本社で同事業を担当するティム・レスリー副社長は胸を張る。ただし、”幅広い”の中には動画コンテンツの巨大市場であるアダルトコンテンツは含まれていない。あくまで、ファミリー層を対象とした健全なサービスだ。

アマゾン・ジャパンは、これにより3つの異なる方法で動画コンテンツを顧客に届けることができるようになる。物理的な円盤(BD/DVD)を箱詰めして自宅に届ける伝統的な方法、アマゾン・インスタント・ビデオによって一定期間再生できるレンタル、そして今回のプライム・ビデオだ。

プライム・ビデオによって無制限に視聴できるようになれば、レンタルやBD/DVDの販売に悪影響はないのだろうか。これに対する答えは、「相乗効果のほうが大きい。とくにプライム・ビデオでは多くの顧客が気軽に再生できるようになる。認知が拡がることになり、コンテンツ業者にとってメリットは大きい」(レスリー副社長)。この論法をその通りだと感じるか、反発するか。コンテンツ業者の受け止め方は、さまざまだろう。

米国とは戦いの構図がまるで違う

数多くの特典を加えることで「プライム会員であること」の価値を高めていく――このアマゾンの戦略は「年会費4000円」で会員限定の小売店を展開する「コストコ」に通じるところがある(コストコ、年4000円の会費はどれだけお得か)。

コストコでは会員でなければ買い物をできない。プライム会員でなくても利用できるアマゾンとは異なるが、目指している事業モデルは似ている。会員数を増やしていけば会費収入が安定的な収益基盤になるため、会員になったときの特典=オマケを増やしていくことに余念がない。

オマケということは、「実質無料」という考え方もできる。こんな破格の動画配信サービスの登場で、月額課金制の動画配信サービスは大きな影響を受ける。具体的に影響を受けるのは、日本テレビ傘下の「Hulu」と9月2日に上陸する「Netflix(ネットフリックス)」だ。

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米国では「Netflixでは見ることができないビデオ」をアピールすることでシェア奪取を目指している

米国の動画ストリーミング市場ではネットフリックスの存在が圧倒的だ。ニールセンの調査によるとネットフリックスは36%のトップシェアを誇り、アマゾンは13%、HuluPlusは6.5%に過ぎない。そのため日本においてもネットフリックスが有利に展開できそうなものだ。

しかし、実は米国と日本では条件が違う。米国のアマゾンのプライム会員の年会費は99ドル(日本の約3倍!)、月額換算で8.25ドルもする。ネットフリックスの料金は最安値プランが月額8.99ドルなので、ほぼ互角だ。

それに対し、日本のアマゾンのプライム会員を月額換算すると325円。ネットフリックスの日本での月額料金は最安値プランでも650円である。つまり、圧倒的にネットフリックスのほうが高い。先行するHuluにいたっては月額 933円もする。

コンテンツの中身を考慮しない乱暴な言い方だが、日本市場ではアマゾンの「激安ぶり」が際立つ。日本において、アマゾンは強烈な武器を持ったのである。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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