こうした人たちは従来、福祉系の作業所に通ってわずかな工賃を得ていた。厚労省の調査によると、一般企業への就職が難しい人向けの「就労継続支援B型」では、通所者へ支払った2022年度の時給平均額は243円だった。
西村社長は「就労の新しい選択肢を提示したかった」と、この事業を始めた動機を明かす。スタートライン社の農園に在籍する障害者の待遇は、その地域の最低賃金と同程度だ。それでもB型作業所よりは高い。企業に所属するので職歴を得られ、福利厚生も受けられる。
世間からの理解を得るために、西村社長は業界の健全化に乗り出す決意を固めた。スタートライン社が中心となり、2023年9月、障害者向けの農園やサテライトオフィスを提供する事業者の業界団体「日本障害者雇用促進事業者協会(促進協)」を創設したのだ。
スタートライン社は元々、障害者への支援技術を開発するための研究機関を自前で設けている。学者や臨床心理士ら9人の研究員が所属し、学会で論文を発表した実績も豊富だ。蓄えた知見は自社のサービスに取り込んできた。
促進協ではノウハウを会員企業に共有するほか、2カ月に1回のペースで勉強会を開催。6月の会合では、50人ほどを収容できる貸し会議室が満席に。オンラインでの聴講者もいて、「障害者の業務をどう適切に評価するか」とのテーマで活発な議論を交わした。
農園での雇用をどう考えるのか
会員企業は発足時の6社から現在は16にまで増えた。一方、エスプールをはじめとした一部の主要な事業者は加盟しておらず、業界内にも温度差があることをうかがわせる。
また、どれだけ障害者の就労環境を改善したとしても、「農園での作業は経済活動への参加とは言えない」「会社の本業とは無関係のことをやらせている」との指摘はなくならないだろう。いずれも事実だからだ。
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