フェラーリ、「秘密の工場」に行ってみた! NY証券取引所へのIPOは目前に
フェラーリといえば、誰もが知るスーパー・スポーツカー・メーカーである。
一例を挙げよう。筆者が取材に出かけた九州地方のある居酒屋で、年配の女性から「どこから来たとね?」と聞かれたことがある。そのときに「東京から自動車の取材で来たんですよ」と答えたら、「フェラーリとか、かっ飛ばすと?」と聞かれた。さらに詳しく話してみると、この年配の女性はじつはフェラーリを自分の目で見たことはなかった。
それでも、フェラーリがイタリア製の高級スポーツカーであり、「かっ飛ばす」クルマだということは知っていた。かなりざっくりではあるが、イタリアから約1万キロメートルも離れた極東の島国に住む田舎のおばちゃんまで、「フェラーリとは何か」を知っている。そこにこのブランドの強さがある。
IPO実施にあたって、もっとも心配されているのは、イタリアの自動車メーカーでいられるかどうかだ。現在、フェラーリの株のほとんどを所有するFCAは、税法上の都合で企業の国籍はイギリスである。FCA株を所有する割合だけでいえば、10%はイタリア、イギリスが90%である。フェラーリのスピンオフ後は、オランダ国籍の持株会社を設立し、そこにフェラーリ株を移行することになる。
とはいえ、「イタリア製」であることは、少なからず、フェラーリのブランド価値を高めている。ファッションでも、家具でも、イタリア製はデザインに優れて、美しいという定評がある。すべてのオペレーションをイタリアで行うとされているため、ファンの間にはフェラーリをイタリア製スーパー・スポーツカーと呼び続けたい気持ちも強いだろう。
本社工場を取材
そんな世界中のフェラーリ・ファンが「一生に一度は」と憧れる聖地、イタリア・マラネッロにある本社工場を取材する機会を得た。フェラーリファンに限らず、この地を訪れることを夢見るクルマ好きは少なくないだろう。
正門の付近に立ってまず驚いたのは、思いの外、静かであること。世界に冠たる高級スポーツカー・メーカーのフェラーリ本社とはいえ、工場なのだから当たり前かもしれない。年間生産台数をあえて7000台程度に抑制しているというユニークな経営方針を取ることもあって、工場を出入りするトラックや人の数はそう多くはないからだ。
創業者であり、社名の由来にもなっているエンツォ・フェラーリがこの地に創業して以来、正門には「Ferrari」の黄色い文字が掲げられている。「フェラーリといえば、赤!」と思われがちだが、それはF1で戦うときにイタリアの国のカラーを掲げているからだ。実は、地元モデナ県の色であるイエローが、同社のカンパニー・カラーにもなっている。1947年の創業時から変わらぬ門の周辺は、拍子抜けするほど小さく見える。この門の裏には、創業者のエンツォ・フェラーリ氏が引退するまでずっと使っていた社長室が当時のまま残されている。
本社前で写真を撮ったり、道を挟んで向かいにあるフェラーリストアで買い物をしたりする観光客を横目に、この門の内側へ入ることができるのはフェラーリを購入した人に限られる。メディアの中でも、「どこよりも敷居の高い工場」として知られている。
筆者もこれまでに、ランボルギーニ、アストンマーティン、マクラーレン、ロールスロイス、ベントレーといった名だたる高級車メーカーの本社工場に足を踏み入れてきたが、フェラーリはこのときが初めてだった。エントランス脇にある受付を通ると、外観から想像するのより、ぐっと近代的なウェイティング・スペースが用意されている。デザイン性にも優れるチェアにかけて、フェラーリの歴史がわかるビデオを見てから、待望の工場見学へと移る。
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