現役の若手が語る「職業としての研究者」のリアル 論文は質より量?「永年雇用」までの長い道のり

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こうした助成は3年、5年などの期間が決まっていて、〇年目には100万円などというように1年ごとに研究費の予算がつく。申請には、研究の意義や計画を書いた申請書や、それまでの論文や著作物をまとめた業績リストを提出するため、研究を続けるためには、今獲得している資金で業績を出し、アイデアを得て、次の資金獲得につなげる、というサイクルを永遠に廻すことになる。

「生き延びる」ために、脇目もふらずに論文を書く

研究職は知的労働と言われるものの、決して優雅な生活ではない。特にパーマネントの職を得るまでは、業績が少なければ次はないと思ったほうがいい。論文5本と論文10本の応募者がいた場合、普通は10本の応募者が採用されることが多いと聞く。5本の応募者の論文のほうが少しレベルの高いジャーナルに出ていたとしてもだ。仮に5本の応募者を採用するためには、採用担当者がそれなりの理由を用意しないといけない。

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まずは論文の数。その次に質なのである。したがって、脇目もふらずに論文を書くことが「生き延びる」ために必須である。

(編集注:採用の基準などについての記述は、あくまで著者の経験に基づくものであり、すべての研究職に当てはまるとは限らない点をご留意ください)

よく言われるように、そもそも日本は研究への予算が少なく、選択と集中で基礎研究にお金をなかなか配分してくれない。遊びから生まれる発見には構っている余裕がないといった風体である。

まあ、にらみつけているだけでは何も変わらないので、とりあえずまだ大学の運営などに責任のない今は自分が楽しく生きる術を模索するだけだとスッキリ考えることにしている。

これから研究者として生きていく我々の世代は、今の時点で教員になっている年上の研究者たちが歩んできた道とは異なる道をたどることになるだろう。私は日本国内だけではなく海外にも拠点を持ち、自身と研究にとってよりよい環境を自由に選べるようになりたい。

近年、普及してきたAIベースのツールは瞬く間に進歩するはずなので、そういったものを駆使し、思考を巡らすという本質的な作業にだけ没頭できる環境に身を置きたいという願望もある。指導教員が若手の頃と比べると、時代は大きく変わった。日本と海外の関係も、技術の進歩も。

京大の松浦さん(著者の所属研究室の教授。シロアリ研究で非常に有名)に言われたことがある。

「みんなが大崎さんを見てるよ。どんなふうに進んでいくのか。下の世代は特に見てると思うよ」

そんな、私は私の人生を生きているだけなのになぁ、とは言ったものの、いつの時代も下が上を参考にするのは当然でもある。私だって少し上の世代を凝視して学生時代を過ごしたし、今だってコッソリ見ている。先輩たちの背中を見つつ、自分に合った方法を取り入れて、そのときどきで最善の一手を打ち続ける所存である。

大崎 遥花 クチキゴキブリ研究者

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おおさき はるか / Haruka Osaki

1994年生まれ。日本に現存する唯一のクチキゴキブリ研究者。
九州大学大学院生態科学研究室博士課程を修了後、京都大学を経て、2023年よりノースカロライナ州立大学で研究を行う。日本学術振興会特別研究員。
狭い場所が好きなのにアメリカの家は広く、最近落ち着かないらしい(研究者と研究対象は似るという)。
面白いといえばゴキブリ、でもカッコいいといえばカミキリ。ゴキブリ採集の副産物の土壌動物も好物。
ペンで生物画を描くのが趣味。クチキゴキブリ研究に生涯を捧げることになるのだろうなあと腹をくくっている。

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