現役の若手が語る「職業としての研究者」のリアル 論文は質より量?「永年雇用」までの長い道のり

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同じ研究職でも、所属する研究機関が大学か、研究所か、はたまた民間企業かによっても大きく異なる。研究所は国立や私立の機関で、研究所や研究室ごとにだいたいテーマが決まっていて、そのテーマについて研究する研究者が集まっている。

そのため、「自分が興味あるのはゴキブリなので、ゴキブリの研究をやります」と言って研究所とは関係のないテーマを持ち込んで給料をもらうことはできない。

ただし、自身の取り組みたい研究と研究所のテーマが幸運にもかみ合っている場合もある。研究所は基本的に教育機関ではないので、授業を教えることはない。その分、研究や機器の整備、依頼解析(研究所の外部から研究所の機器を用いた解析を依頼されて行うこと)などに勤務時間を割くことになる。

一方、大学の研究職は、大学教員として学生の教育に携わりつつ、自らの研究を進めていくスタイルになる。特に生物学は大学や研究室から研究テーマを指定されないこともある。

九大の大学院生時代に、隣の研究室だった数理生物学研究室の教授の佐竹さんに「自由なテーマで研究をしたいなら大学が一番だよ」と言われたことがある。佐竹さんとは、「指導教員–学生」ではない気楽な関係を築かせてもらっていた。毎回たくさんポジティブな言葉をくださる先生で、私は佐竹さんの言葉が聞きたくて学振の申請書の添削や、こういうちょっとした相談などを頼んで聞いてもらっていたのである。

また、学振PD(後述する競争的研究費の一種。学位を取って5年以内の若手研究者の養成のためのフェローシップ制度)の採用が決まったときには「お祝いに行きましょう!」と言って焼肉に連れて行ってくださった。バリバリ研究されてきた経歴の持ち主のお話を独り占めできる機会があって幸運だったなと思う。

業績を出し、アイデアを得て、次の資金獲得につなげる

ただ大学が一番いい、とは言ったものの、粕谷さん(著者にクチキゴキブリ研究をさせてくれた指導教員。居室が一緒だった)が毎週の会議から帰ってくるたびに「へろへろですよ」と言っていたのを思い出す。大学は教育機関でもあるので、今の大学教員の方々は、学生の指導や講義、大学の運営会議などに多くの時間を割かれているのが現実だ。学位を取り、総合格闘技である研究をこなして教員になった彼らは日本の頭脳とも呼べるような人たちなのに、研究に集中できる環境が備わっていないのは問題だよなあと思う。

さらに研究費も獲ってこなければならない。研究職の人は、所属する研究機関から給料をもらうことで生活費をまかない、研究機関から出される少しばかりの交付金と自身で獲得してくる競争的研究費などで研究費を得て研究している。競争的研究費とは、学振や科研費、その他さまざまな組織からの助成金を指す。これらに応募して、採用されれば研究資金が得られるのである。

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