日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」

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1960年代頃まで、アメリカの企業組織では、組織能力を向上するために「内部留保と再投資」を行う戦略的管理が行われており、それによって価値が創造されていた。

また、「終身雇用」の慣行があり、労働者は安定的な雇用を享受していた。「内部留保と再投資」そして「終身雇用」はかつての日本的経営の特徴であるかのように言われているが、実は60年代頃のアメリカの企業経営も同じようなものだったのである。

しかも、この時期は、アメリカの資本主義の黄金時代と言われ、高成長と格差の縮小を同時に達成していたのである。

正当化された「株主価値最大化」と「削減と分配」

しかし、1960年代の株式市場のバブルが1970年に崩壊すると、金融市場からの圧力もあって、企業分割がブームとなった。さらに、80年代には、企業を分割して売り飛ばし、利益を抜き取る敵対的買収が盛んとなった。

そして、分割した企業をばらばらにして高く売り飛ばすため、労働者を解雇して人件費を削減し、株価や配当を吊り上げるといったことが行われるようになった。

その結果、企業組織の行動原理は、かつての「内部留保と再投資」と「終身雇用」から、「削減と分配」へと変化したのである。

この「内部留保と再投資」「終身雇用」から「削減と分配」への転換を正当化したのが、1970年代から80年代にかけて台頭した「株主価値最大化」というイデオロギーであった。そして、この「株主価値最大化」のイデオロギーのベースにあったのが新自由主義であり、主流派経済学の市場理論である。

主流派経済学は、資源を効率的に配分する市場原理を前提とする理論である。

この理論からすれば、市場ではなく組織により資源を配分する企業組織は、「市場の不完全性」に過ぎないものと見なされる。資源配分は、企業組織の「内部留保と再投資」ではなく、株式市場に委ねるべきである。そうすれば、株価は、価格メカニズムを通じて、企業の価値を正確に反映し、株式の売買を通じて資源の効率配分が達成し得るであろう。労働も金融も市場に委ねれば、資本も労働も市場原理によって、最も効率的に配分されるのである。

このような主流派経済学の市場理論によって、「株主価値最大化」と「削減と分配」が正当化されたのである。

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