トランプ・バンス体制を作った「極右思想」IT富豪 「トランプ後継」バンス副大統領候補の素顔(下)

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バンスは『ヒルビリー・エレジー』を出版した後、「白人労働者階級」出身を売りものにしている。バンスが副大統領候補になれば、ラストベルトの激戦州の白人労働者にアピールすることができる。もう1つの打算は、バンスの妻がインド系の移民の子供であり、移民や少数民族にアピールすることができることだ。妻はイェール大学法科大学院のバンスの同窓生である。

さらにトランプにとってバンスは頼もしい存在でもあった。バンスは弁護士で、多くの訴訟を抱えるトランプに有効なアドバイスを与えることができる人物である。バンスはさまざまなメディアに登場し、優れた話術の能力を発揮していた。トランプにとってバンスは自分の「メッセンジャー」の役割を効果的に果たしてくれる人物でもあった。トランプをシリコンバレーと繋ぐ重要な役割を果たしてきた。

そして何よりも「MAGA運動」を牽引する役割も果たしている。バンスは共和党内の右派勢力の支持を得ていた。民主党の幹部は「バンスはワシントンで最も極右の過激派の1人である」と語っている。中絶問題などの政策でも極めて保守的な立場を取っている。保守的なキリスト教徒のエバンジェリカル(福音派)の支持もある。

バンスは「MAGA運動」の次の指導者か

アメリカの多くのメディアは、バンスを「MAGA運動」の次の指導者になると指摘している。また一部の論者は「バンスはトランプよりもはるかに右寄りである」と、警戒心を露わにしている。

最後に1つ付け加えるとすれば、バンスが共和党の副大統領候補に決まったのは、バイデン大統領が選挙から撤退し、ハリスが民主党の大統領候補として登場する前である。トランプは大統領選挙での勝利を確信し、バンスを選択することは無党派にアピールするよりも、共和党支持基盤を強化する狙いがあった。

だが、ハリスが民主党の大統領候補になり、無党派層を引き付けている。さらに大統領選挙の最大の争点が中絶問題になるのは間違いない。そうなるとバンスの連邦レベルでの中絶全面禁止を支持する超保守的な立場は、トランプにとって足かせとなる可能性もある。

MAGA運動は、白人労働者とエバンジェリカルを主体として自然的に発生したトランプ支持グループである。明確な思想に基づいた運動体ではない。バンスは「国家保守主義」や「反エリート主義」を主張している。バンスはMAGA運動を新しい次元に昇華させることができるのだろうか。一部の論者は、「バンスは労働者を見捨てた」とその変節を説明している。

トランプが勝利しても、敗北しても、「トランプ後」の共和党をバンスが引き継ぐ可能性はある。選挙中は当然、選挙後もバンスの発言や行動は注目しておく必要がある。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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