技術的側面だけを考えれば、一つの企業のほうが効率的に垂直統合事業を遂行しうるはずである。しかし、以下に述べるような経済社会の条件を考えると、違う状況が発生する。トップに位置する大企業の立場からすると、事業のすべてを自社内で行うよりは、系列子会社に発注するほうが都合がよいのである。
第一に、下請けからの納入価格をコントロールして、同一組織内ではできないほどの効率化を実現できる。また、ジャストインシステムで在庫を減らせる。納入のタイミングを合わせるのは、下請けの責任だ。
今年夏の輪番操業においても、この体制に伴う問題が発生したはずである。大企業は自分の都合で操業日を決められるが、下請けはそれに合わせざるをえない。これまで休めた日も休まず働く。こうして、ゆがみは下請けにしわ寄せされる。
企業グループ方式のほうが都合がよい第二の理由は、賃金体系を企業別にできることである。したがって、企業別に著しい賃金格差が発生する。第三は、労働組合が企業別であることだ。トップに位置する大企業は、組合も会社寄りであるため、過剰な要求を免れることができる。
第四は、福利厚生の面にかかわる諸事情である。福利厚生諸施策を企業単位にできれば、大企業が有利だ。高度成長期の住宅不足の時代に、大企業が社員に提供できる社宅は、極めて大きな意味を持った。
大企業の企業年金は、非常に手厚い。健康保険も、中小企業は政府管掌保険だが、大企業は企業別の組合保険なので、財政は豊かだ。しかも、定年退職後は面倒を見ないので、人口が高齢化しても財政は悪化しない。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年11月5日号)
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