ある学生が次のように言った。
「若者が未来を作っていかなければならない、世の中を変えていかなければならないというが、この先行きの見えない状況で、何をしろというのか。自分のことで精いっぱいで、世の中のことなんて考えていられない。生活の安定が保障されて、初めて世の中を変えることができるのではないだろうか」
なるほど、一理ある見解である。
しかし、生活が安定すると、それが乱されることをおそれて、社会を変えていこうという意欲がそがれる傾向がある。失うものの少ない不安定な状況こそ、大きな変化を起こすチャンスなのではないか。かつて大きな変革ほど、失うものの少ない土地で起こったように。
先行きの見えない状況において、人々の発想は萎縮しがちである。萎縮した発想を自由に放任しても、ますます萎縮するだけ。そこから創造的発想は生まれない。
創造的発想を生み出すには、むしろ制約の下で思考するような、対話的な仕掛けが必要なのである。
日本教育大学院大学客員教授■1966年生まれ。早大法学部卒、外務省入省。在フィンランド大使館に8年間勤務し退官。英、仏、中国、フィンランド、スウェーデン、エストニア語に堪能。日本やフィンランドなど各国の教科書制作に携わる。近著は『不都合な相手と話す技術』(小社刊)。(写真:吉野純治)
(週刊東洋経済2011年10月29日号)
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