「エンジニア冒険家」という新しい生き方

「旅」と「仕事」を両立させることは可能だ

「大学院では望遠鏡づくりから論文書きまで、ものすごく忙しかったので、卒業後はまず旅をして、その後に民間の宇宙飛行実現に貢献したいと思っていたんです。ところが卒業前の7月、学会でスペースXの人と出会い履歴書を渡したら、面接が次から次へと進んで『2月から働いてほしい、5日以内に返事がほしい』と。本当は他の宇宙企業も受けたかったのですが、スペースXは『すぐに人が必要』と強気で、逆に早く入れないかと言ってきたのです(笑)」

スペースX社で働いていたころ。有人宇宙船ドラゴンの実験模型の中で。宇宙へ行きたいという目標は今もぶれない

選考過程では、CEOのイーロン・マスク氏からのアンケートがあったそうだ。「あなたが並はずれた候補者であることを示す例を挙げよ」という質問があり、高橋氏は南極でのクリスマス休暇中、たった1人で望遠鏡を運用した経験を書いたという。

高橋氏は大学院時代に、宇宙の起源を探る望遠鏡を南極点に建設するプロジェクトに参加し、電子回路の設計から基盤製作まで実用的な経験を積み、専門の物理学以外に電子工学や機械などの知識を得ていた。

さらに、極低温の液体ヘリウムなど、危険物質を扱って望遠鏡を運用する仕事も担った。先に「博士号は就職に関係ない」と書いたが、博士号取得の過程で得た、幅広い知識とモノづくりの実践的スキルが、どこで働くにも役に立っているという。

「1年持てばいい方」とう職場

高橋氏がスペースX社に入社したのは2011年2月。直前の2010年12月に、同社のドラゴン宇宙船が宇宙周回飛行に初めて成功し、次はいよいよ国際宇宙ステーション(ISS)への初ドッキングに挑戦だ!と会社全体が活気に満ちあふれていた時期である。

「大部屋でエンジンからロケットの機体、ドラゴン宇宙船2~6号機まですべてが作られていて、製造ペースがすごく早い。毎日のようにモノづくりが進む様子をワクワクしながら見ていました。1200人の社員は平均年齢30歳ぐらい。僕以外博士号を持っている人はほとんどいなかった。出勤時間は決まってないし、生産的でない会議はいつ抜けてもいいと言われ自由でしたが、他社より勤務時間が長くて給料も低い。それでも働きたいという人材を集めていた」

結果的に、NASAや大組織に慣れていない、新卒を多く採っていたようだ。

急ピッチで開発が進む現場は、新人も研修者も宇宙に実際に行く部品の開発ができる一方、退職者も多かった。イーロン・マスクCEOの期待に応えられなければ、解雇される。「1年持てばいい方」だという。

刺激的だが過酷な職場で、高橋氏はどのように仕事をこなしていったのか?

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