「エンジニア冒険家」という新しい生き方 「旅」と「仕事」を両立させることは可能だ
「僕は電子機器担当で宇宙環境やISSドッキング時の電流ショックに宇宙船が耐えられるかなどの責任者になりました。知らないことばかりだけど、チームの6人は自分の仕事で精いっぱいで教わる時間なんてない。そこで自分で勉強を始めたんです。
過去の実験レポートを読みこんで、次に実際に道具を触ってみる。そして自分で実験を計画して実施し、1人で習得していったのです」
ここに、高橋氏流の「エンジニア冒険家人生」で重要という1つ目のスキルがある。
それは「学ぶ訓練ができていること」。実は高橋氏が希望したのは別の部門だった。だが、電子機器部門を勧められ、現場で自ら訓練を積みながら責任ある仕事をこなしていった。
短期間に物事を習得することについては、大学(カリフォルニア工科大学)時代にトレーニングを積んだ。
「毎日宿題が出て、ものすごい勢いで勉強して2日に一度しか寝ないこともありましたね。その時に勉強した内容は全然覚えていないのですが、『限られた時間に、新しいことを、できるだけ早く学ぶことに慣れるのが重要だ』と教わったんです」
トレーニングで身に付けた「学ぶスキル」
高校から単身アメリカにわたり、英語で苦労した高橋氏は、もともと学ぶのがそれほど早いわけではなかったという。しかし、トレーニングによって、学ぶスキルを身に付けることができた。
専門外の知識を学ぶことについては、CEOのイーロン・マスク氏も「天才」と呼ばれていた。もともとマスク氏の専門は電気系だが、起業の際ロケットや宇宙船に必要な知識を学んだ。社員が期待に応えられないと解雇し、社員の仕事を自分でやってしまうほどだという。
2012年5月、ドラゴン宇宙船は民間宇宙船で初めてISSにドッキングするという快挙を達成した。
「今も思い出すと涙が出そう」なほど達成感を得た高橋氏だが、翌月、同社を去る。会社や仕事に不満があったわけではないし、将来は戻りたいというが、退職の理由は「旅をしたかった。ドラゴンの成功を見守るまでは頑張ろうと期間を決めていた」と潔い。
高橋さんが旅と仕事の両立に目覚めたのは、大学時代のある出会いがきっかけだ。望遠鏡建設のため南極に4年間通ったとき、夏の4カ月だけ働いて、残り8カ月は旅をしたり、自分の船で航海したりしている人たちがいた。
「これは理想的だ!僕もそうしたい」と強烈に思ったという。