ユニクロ子会社会長に長男を抜擢、柳井氏の胸中
「絶対に世襲はない」。かねてからそう宣言してきたファーストリテイリング(FR)の柳井正会長兼社長(62)。だが、10月12日に世襲への布石とも受け取れる発表をした。長男である一海氏の抜擢人事だ。
一海氏は11月1日付でFR子会社のリンク・セオリー・ジャパンの会長に就任する。リンク・セオリーは百貨店などを中心に「セオリー」ブランドのアパレルを展開。米国での事業も含めればグループの年間売上高は約500億円と国内外のユニクロに次いで大きい子会社だ。同社の会長職には現在、柳井社長自身が就いており、その役職を一海氏が引き継ぐ。
米国の大学を卒業後、一海氏は金融大手ゴールドマン・サックスの投資銀行部門を経て、リンク・セオリー・ジャパンの前身へ入社。09年にFRがリンク・セオリーを完全子会社化したことで、結果的にFR傘下の一社員となっていた。
今回会長に就任するが、代表権は持たず、CEO(最高経営責任者)などの経営の舵取りを行う立場にも就かない。柳井社長は息子について、以前から「株主の代表として経営を監視できる立場として勉強させたい」と話していた。一海氏はFRの株式4・5%を保有する第4位株主。社長の言葉を素直に受け取れば、後継者としてではなく、経営感覚を養うために、一社員から経営を俯瞰できる立場へ異動させたということになるだろう。
社内での育成を強化
ただ、今回の人事は後継者選びに失敗した際の“保険”との見方もできる。
柳井社長はこれまで後継者選びに苦労してきた。2002年に一度社長を退き、IBMから玉塚元一氏(現ローソン副社長)を招き、社長へ据えた。が、玉塚氏は3年で辞任。事実上の解任となったその理由を柳井社長は「急成長ではなく安定成長を描いたため」と説明する。