日本経済の底力 臥龍が目覚めるとき 戸堂康之著 ~事実、データを踏まえ進むべき針路を示す
今の日本(経済)にとって何が必要か、が明瞭に伝わってくる本である。
本書は最初に「災害が多い国の方が長期的には経済成長が高い傾向にある」と指摘する。それは大きな自然災害(や戦災)は、それを期に古い生産設備や技術の基盤が新しいものへと更新され、かつ社会制度も変化することが多いからである。確かに長期的な「安定」は、停滞と既得権益を生み出す。人間はさしあたって困っていないときには、積極的に自分を変えようとは思わないからだ。
著者は提唱する。東北に優遇税制の特区を設け、外資を含め投資を呼び込み、産業を集積し、グローバルな競争力をもつ産業を育てよ、と。そして集積はコミュニケーションを活発化し「文殊の知恵」を生み出す、と。
中小企業の現場を歩いている評者は、日本には「実力はあるがまだ飛躍できていない」「臥龍企業」がたくさんあるとする著者の指摘に深くうなずく。
経済や景気のあり方に関する議論において、相変わらず「内需拡大」論が幅をきかす。それは「貿易依存体質からの脱却」論を伴う。本書が記すように「日本の輸出額の対GDP比は15・6%であり、主要先進国で最低レベル」である。また「すでに日本よりはるかに企業が外国にでている主要な先進国」で、経済の空洞化が叫ばれるような事実もない。大切なのは事実を踏まえた議論である。著者がデータで示すように、海外との取引を行っている企業の成長は、行っていない企業よりも大きいのが実際である。臥龍企業は特区に参入し、かつ世界に羽ばたくとよい。もっと積極的に貿易をしたほうがよいのだ。
TPPへの参加は日本の利益であること、農水省の主張は杜撰(ずさん)であることなど、実にわかりやすい。
とどう・やすゆき
東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻教授。1967年大阪府生まれ。東大教養学部卒業。米スタンフォード大学博士課程修了、経済学でPh.D.を取得。米南イリノイ大学、東京都立大学、青山学院大学各助教授などを経る。
中公新書 777円 179ページ
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