日本人事 人事のプロから働く人たちへ。時代を生き抜くメッセージ 労務行政研究所編/斎藤智文、溝上憲文取材・文 ~命令だけでは動かない信頼に加え、哲学が必要
本書は、日本の代表的な企業で人事にかかわってきた人たちの経験から、これからの手掛かりを探ろうとする。人事制度はかくあるべし、というまとめは一切出てこない。ひたすら、人事にかかわってきた15人の話が紹介されている。
出産・育児のためにブランクのあった女性が伴侶に先立たれ、急きょ、仕事を見つけなければならないというところからキャリアが始まった話や、飲み仲間の上司や同僚のリストラに携わらなければならず、結局退社することになった話など、一つひとつに読み応えがある。
読者によって感じ方はさまざまだろうが、評者は本書のメッセージを大きく3点にまとめたい。
(1)哲学の必要性 人事の仕事ではときに辛い業務も断腸の思いで遂行しなければならないから、それぞれに仕事の哲学がある。むしろ哲学がなければいい仕事はできないようにも見えるのは、人の評価がそれだけ難しいからだろう。それぞれの哲学が形成されていくうえで学問の役割がいかに大きいかをあらためて感じた。
(2)信頼の重要性 人の能力を測る尺度(人事制度)は、メートルやキログラムのようにそのままでは存在しない。感情をもったさまざまな従業員に受け入れてもらうには、職場での信頼関係が何よりも大切だ。
(3)命令だけでは人は動かない
本書で紹介されているのはみな能動的に仕事をしてきた人たち。上の指示に従っていればいいというのでは、ここで紹介されたように働くことはできない。高い能力があればこそだが、彼らを突き動かした何か、それこそが働く環境に最も必要なものなのだろう。果たしてどうやってそれを提供していくのか、とても難しい永遠の課題である。
労務行政 1890円 231ページ
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