中国では、かつて「同性愛」も当たり前だった 男女隔離・纏足・同性愛からみた中国史
本書は三部から構成される。第一部は、家族のありかたに国家や制度がどう関与してきたかに注目し、女性隔離や女性の人身売買などを取り上げる。
第二部は人の体に焦点を定め、性欲のとらえかたや、纏足など「装飾され、変形された体」が持つ意味、女性の自殺、女児殺しなどについて述べる。第三部は「他者」への見かたという切り口から、同性関係や、小説や演劇のテーマの変遷、異文化との遭遇などを考察する。
「女性隔離」の経緯とは
「女性隔離」のたどる経緯が興味深い。古くから父系制家族が社会秩序の基礎であった中国では、男は家の外で仕事をし、女は家から出ないものとされ、女の子どもは年頃になれば親が決めた男に嫁ぐ身であることを教えこまれていたのが(婚礼前に婚約者が死ぬと、あとを追って自殺する娘もいた!)、20世紀に入ると女性が外に出るようになり、男であること、女であることの意味がさまざまな分野で変化していった。
しかし夫と妻のありかたを含む家族制度はほとんど変わらず、1990年代には女性が「家庭に戻る」のを促す動きさえ出てきた。
そんなことを知ると、単純な比較は禁物とはいえ、日本のことも連想せずにはいられない。
男女ともに家の外で仕事をしておカネを稼いで自分の生活を支えることが当然とされる一方で、誰でも理想の相手を見つけて結婚するのを望むものだという観念が根強く残り、結婚後の女性がしばしば「嫁」としてのはたらきを求められる。女性の「社会進出」が進んだという感覚があるのとは裏腹に、女性の間で「専業主婦」願望は復活しつつあるのだ。
もともとテキストとして刊行された本書は、中国ジェンダー史や関連分野を学び、研究する人にとって非常に充実していることはまちがいないが、背景知識を持たない私にも楽しく読むことができた。性や体、異性関係や同性関係にまつわる中国の物語や逸話が随所で紹介され、絵やアート作品の写真などの掲載も多く、記述と合わせて想像をかき立てられる。また、纏足、辮髪、一人っ子政策、宦官など、用語としてしか知らないようなことがらが文脈の中で丁寧に説明されている。
女として、男として、などとあらためて考えるまでもなく、私たちにはジェンダーの視点がしっかりと備わっていて、普段からそれに基づいてさまざまな選択をしている。
どんな服を着るか、どんな言葉遣いをするのか、何かを買うとき、どんな色や形を選ぶのか――無意識にすることも多い。そんな選択のどこからが本当の自分の意思で、どこまでが社会や制度によって規定されたありかたなのか? その「かっこいい」「かわいい」は誰にとってのことなのか? 本書はそんなことに意識を向けてみるきっかけにもなるだろう。
いつの時代も人は、自分のありかたについて家族や社会からの期待や圧力と国の制度がぶつかり合い、もつれ合うところに生きているのだろう。そこに個人の志向が加わっていろいろなドラマが出現する。本書はそんな流れの中にいる自分の立ち位置を俯瞰する手がかりにもなる。
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