天安門事件をキッカケに、中国共産党は怖くないと確信した--蔡衍明・旺旺集団董事長
ところが、誰も送金してくれない。品物を先に送れ、売れてから代金を支払うという。それでは代金回収が困難になる。これはコンテナ100本分の赤字だけの問題ではなかった。すでに中国での販売に向けて、工場建設が始まっていたからだ。そこで、長沙市に営業所を設置して、自社で販売しようと決意した。上海市や広東省広州市にも営業所を作った。だが、自分たちでやろうとしても、最初は思うようにいかない。安売りすると今後の販売に影響するので、当初予定した価格は維持し、売れ残った製品は小学校や中学校に無料で配った。当時はまだコマーシャルをしていなかったので、これはよい宣伝になった。
その一方で、前金方式で契約してくれる取引先を地道に探し、その地区のエージェントになってもらった。賢いディーラーはきちんと先に送金してくれ、結果として大儲けをした。
--苦労の多い中国ビジネス。どうすれば成功するとお考えですか。
私たちが進出した当時、中国は資本主義的な自由取引に変わったばかりで、それに慣れていなかった。今は、商売人にとって信用が第二の生命であることを理解している。日本企業は保守的で、信頼を大切にするが、現在の中国では相手と信頼関係を構築することができる。当時と比較して、法律も整備されている。中国には十数億の人口がある。一般的にはこれを所得水準でみたピラミッド型で考えるが、とても大きなピラミッドだ。
昔の中国では、ブランドにはそれほど価値がなかった。しかし、現在は違う。ブランドがあるなら1元、なければ0.6元かもしれない。これは都市部か農村部かでも違う。値段を最優先する人もいれば、健康や栄養面を最優先する人もいる。ピラミッドの各レベルで考え方が違うのだ。中国の市場は、異なった角度から見る必要がある。
日本企業の厳しい品質管理は、中国でも武器になる。中国では消費者意識が高まっている。今や、世界の中で品質に対する要求が最も高いのは中国。多くの人が中国の食品は「黒心食品」(不良品)だというが、それは実態を知らないからだ。
しかも、中国人は面子を大切にする。問題を起こして世界中から非難されると、さらに品質に対する要求が厳しくなる。その結果、中国では無数の工場が毎年、淘汰されている。
もう一つ、中国で大切なことは社員の団結だ。中国は非常に大きいので、各地にいる社員をどのようにまとめるか、組織力が必要になる。いっそのこと中国共産党の組織運営を学ぶくらいの発想が必要だ。