そして変化が激しい時代には、同じ対象物に対しても、人々の解釈の違い(多義性)は大きくなりがちだ。
たとえば「AIはどのようなものか」「気候変動は人類にどのような影響を及ぼすか」「この会社の存在意義は何か」などに、人によって解釈の多義性が生まれがちになる。
そういう時代だからこそ、「組織の全員が解釈をなるべくそろえ、納得しながら行動し、その行動から得た解釈が、さらなる納得性を生む」というサイクルを作っていくことが重要、というのがセンスメイキングの骨子のひとつだ。
変化の激しい時代だからこそ「腹落ち」が大事
つまりセンスメイキング理論は「腹落ち」の理論といえる。センスメイクには「腹落ち」という意味がある。
センスメイキング理論の経営実務への含意は、「変化の激しい時代に、腹落ちの弱い企業は生き残れない」ということだ。
人は腹落ちをしてこそ初めて本気で行動するし、それが組織を動かす最大の原動力になるからだ。
一方、多くの日本企業の課題は、社内で従業員、場合によっては経営者までが「この会社は何のためにあるのか」「どういう未来を作りたいのか」について多義的になり、全員が同じ方向で腹落ちしていないことにある。
近年注目されている「パーパス経営」のように、「パーパス」「ビジョン」を掲げる企業は、表面上は増えてきている。
他方で、その社員たちが本当に同じ方向感で腹落ちしているかは、疑念を抱かざるをえない。
「パーパス」という言葉だけが上滑りし、社員はそれに腹落ちしないまま、「自分が働くのは義務だから」「評価が下がるから」「給料が欲しいから」という理由だけで、日々活動している企業も多いのではないだろうか。
こういった企業の多くは、遠い未来への腹落ちよりも、目先の数字の正確性だけを重視する。
必死になって需要予測をし、予算管理をし、自らを数字で縛る短期思考の中期経営計画を作る。
「客観的に企業を数字で分析すれば、その課題を全員が同じように共有できて、問題は解決する」という、実証主義の立場だ。
しかし、これだけ先が読めない時代に、腹落ちのないまま数字だけに縛られていては、社員も経営幹部も行動できない。
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