「楽観的」というだけで、10年も寿命が伸びる NHK「白熱教室」が迫る脳科学の最前線

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1960年代、ロバート・ヒース博士は、さまざまな精神疾患の患者の脳に電極を埋め込む実験を世界で初めて行いました。その被験者のひとり、24歳の青年「B-19」は重度の抑うつ症でした。彼は毎日のように自殺願望にさいなまれ、喜びが感じられなくなっていたのです。ヒース博士は彼の脳のあちこちに電極を埋め込み、電流を流してどんな気分がするか尋ねました。

ほとんどの場所では何も起きませんでした。しかし脳の「側坐核」という小さな場所を電流で刺激されたときには、B-19は「気持ちよくて、暖かい感じがする」と言い、自慰や性交をしたい、という欲求を感じたのです。

これによって、側坐核が快感をもたらし、一時的に憂うつを晴らす場所だということが明らかにされました。

私は、この側坐核を中心とした回路こそが「楽観脳」の中心部だと考えているのです。

楽観脳と悲観脳のバランスが大事

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現代ではもちろん人の脳に電極を刺して実験することはできません。代わりに私たちが用いるのが、脳画像を撮影できる「MRI」や脳波測定です。私はこれらの機器を用いた実験で、楽観脳についてのある事実を確かめました。

講義でも詳しくお話しするその事実とは、「楽天家は同時に刺激を好む」ということです。楽観主義の人は、快楽や興奮を追い求める度合いが強く、強烈で激しい経験を好みます。そして、刺激的な経験のためなら危険を冒すこともいといません。

そうした人々は楽観脳の回路が強く働いていることが、現代の脳計測技術でも実証されはじめているのです。

彼らも、楽観的な修道女やエジソンのように長寿と成功が約束されているのでしょうか? 実は必ずしもそうではありません。楽観的なあまり、ドラッグや危険な冒険、興奮を追い求め過ぎて危険に身をさらしてしまうことは、楽観主義のデメリットともなるのです。

大事なのはバランスです。

楽観脳は確かに、長寿と成功に影響します。しかしそれは同時に、「悲観脳」がバランスよく危険を察知して、あまりに刺激や興奮を追求しすぎないように制御するからでもあるのです。

講義では、楽観脳と悲観脳のバランスがとれた本当の楽観主義と、それをどうやって身につければいいのか、考えていきましょう。

エレーヌ・フォックス 認知心理学者、神経科学者

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Elaine Fox

ダブリン大学、ヴィクトリア大学ウェリントン校などを経て、エセックス大学で欧州最大の心理学・脳科学センターを主催。その後、オックスフォード大学の感情神経科学センターを設立・指揮したほか、イギリス政府のメンバーとしてメンタルヘルス研究における国家戦略も担当した。現在はオーストラリアのアデレード大学で心理学部長を務め、認知心理学と神経科学、遺伝子学を組み合わせた先進的な研究を行う。またコンサルタント会社〈オックスフォード・エリート・パフォーマンス〉を経営し、トップアスリートやビジネスパーソンなどのメンタル・トレーニングの指導にもあたっている。著書に『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)。

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