CEOなのにクビ「ChatGPTの親」が仕掛けた猛反撃 持ち前の人心掌握術でクーデターを4日で制圧

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同日の夕刻、OpenAI取締役会はそれまで動画配信サービス「トゥイッチ(Twitch)」のCEOを務めていたエメット・シアを新たな暫定CEOに担ぎだした。それまで同社CTOだったミラ・ムラティは暫定CEOを僅か2日間だけ務めただけで、その職を譲ることになった。

ところが、シアの暫定CEO就任を伝えるOpenAI社内のスラック(メッセージング・アプリ)には大勢の従業員から(「糞くらえ」を意味する)「中指を突き上げる」絵文字が殺到した。絶対に許すことはできない、という激しい抗議の意思表示である。

最大の理由は「お金」

OpenAIの研究者をはじめ従業員達は、それまでアルトマンCEOの配下でChatGPTやGPT-4等を開発してきた自分達の仕事に誇りを感じていた。「今の我々は歴史に残るような凄い事をやろうとしている」という実感があった。

が、それ以上に大きかったのは経済的なインセンティブだ。

イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン なぜ、わずか7年で奇跡の対話型AIを開発できたのか
『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン なぜ、わずか7年で奇跡の対話型AIを開発できたのか』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

アルトマンの肝いりで、OpenAIは株式公開買い付け(tender offer)を間近に控えていた。これにより同社の評価額は860億ドル(12兆円以上)に達すると見られたが、この機会にOpenAIの従業員らは自分の持ち株を売却すれば大金を手に入れることが確実視されていた。

しかしこのままアルトマンが解雇されて同社を去れば、この株式公開買い付けはお流れになり、従業員らは折角の大金持ちになるチャンスを逃してしまう。また、持ち株の価値も暴落してしまうだろう。

社内クーデターの首謀者と見られたスツケヴァーには、従業員達から抗議のメールが殺到した。

結局、わずか4日でアルトマンはCEOに復帰し、いったんはOpenAIに留まったスツケヴァーも、後にOpenAIを去ることとなった。

小林 雅一 KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授

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こばやし まさかず / Masakazu Kobayashi

東京大学理学部物理学科卒業、同大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。ニューヨークで新聞社勤務、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭を執った後、現職。著書に『クラウドからAIへ──アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』(朝日新書)、『AIの衝撃──人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)、『生成AI──「ChatGPT」を支える技術はどのようにビジネスを変え、人間の創造性を揺るがすのか?』(ダイヤモンド社)など多数。

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