大震災の後で人生について語るということ 橘玲著 ~「神話」を洗い直し 魅力的な選択肢を提示
「ポスト大震災の人生設計」の指南書である。3・11を境にルールが変わったとしつつ、もう一つの「見えない大災害」として、14年にわたり高止まる自殺者数に目をこらす。その分析には、ブラックスワン(起こりえないと思われた災厄)、臨界状態(わずかな刺激で大変化が起こる過敏な状態)、複雑系やロングテール(低い確率で起こるさまざまな現象)など時代のキーワードが駆使される。自殺者の多さについては「強い共同体」の負の側面とも示唆している。
人生設計のうえで重要な経済合理性の変化を、不動産神話、会社神話、円神話、国家神話から洗い直す。たとえば不動産神話については、「タマゴをひとつのカゴに盛る」危険性(不動産だけ国債だけ預金だけはまずい)、「マイホームを買うと損をする」(賃料の高い大型物件を借りるほうが得)、変動金利型が主流となりつつある住宅ローンのノンリコース(債務不履行の場合、銀行が取れるのは担保物権のみ)が債務者を追い詰める、など具体的に見通す。持てる者から持たざる者への所得の移転の必要性を説き、2割程度の資産課税も勧める。
本書の核心である会社神話では「大きな会社に就職して定年まで勤める」という生き方が「人的資本」(金銭ではない、ビジネスマンとして可能性や価値)を損なっている、とあらためて鋭く問う。「ナッシュ均衡」と呼ばれる、ものごとが安定している状態は偶然から導き出されるとし、日本的労働慣行もその一つと指摘する。最も賛同したいのは、会社という「伽藍(がらん)」(組織)に縛られず、クリエーティブかつ自由に生きることのすすめだ。「バザール」と著者が言う生き方は、日本人のサラリーマンの2割程度に可能だとしている。これはなかなか魅力的な選択肢と思える。
たちばな・あきら
作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、『マネーロンダリング』でデビュー。同年、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーになる。「海外投資を楽しむ会」の創設メンバー。
講談社 1575円 223ページ
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