日本支援「ホーチミンメトロ」いまだ開業しない謎 「中国も手を出したがらない」ベトナムの事情

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通常、営業許可は運輸省などの監督省庁が下すものだが、そこに認証能力や機能がない場合、施主側が外部機関に外注することになる。ベトナムは国鉄が存在し、鉄道を管轄する運輸省があり、独自のレギュレーションを持っている。それにもかかわらず、第三者機関に委託するというのは一種の役人の責任逃れともいえるが、これがまた厄介な問題だ。

ヨーロッパ式の安全認証を取り入れている、東南アジアをはじめとする途上国の鉄道システムの第三者認証を行っているのは、外国人の就労が容易かつ、物価の安いタイやマレーシアなどを拠点に活動している個人商店のようなヨーロッパ人であることも多い。しばしば「不良ドイツ人」などと揶揄されているが、いわば本流から外れた鉄道コンサルである。

こういった鉄道コンサルは、開業を遅らせることこそが仕事になっているきらいがある。日本や中国相手ともなれば、ヨーロッパ式に「耳を揃えて書類を提出」することに慣れていない点を突き、なおさら重箱の隅をつつくような不備を指摘する。ハノイメトロ2A号線も開業が2~3年伸びた最終要因はこの第三者認証にあった。ホーチミンメトロ1号線においても、また同じ状況が発生する可能性が高い。

現地報道によれば、在ベトナム日本大使がホーチミン市人民委員会委員長に外交書簡を送り、開業までのタイムスケジュールを7月までにメーカー試験終了、その後、運転要員の訓練や試運転に移り、12月までに完了することを目標として設定した。訓練期間等を考慮すると、第三者認証はその後になると思われ、開業は早くとも年明け以降になる可能性が高い。

中国すら手を出したがらない

ベトナムには、ハノイ、ホーチミン合わせて十数路線の都市鉄道計画が存在している。ハノイでは3号線がフランスのODAで2009年に着工し、2015年に開業予定だったが、同様の理由で大幅に遅れている。地上区間のインフラは数年前に完成しており、第三者認証がこの6月に始まった。ホーチミンメトロ1号線と同じく7月の開業が発表されていたが、認証取得が遅々として進まず、13度目の開業延期が決まった。地下区間に至っては目下工事中であり、開業時期の見込みは立っていない。

ハノイ3号線
フランスのODAによって建設されているハノイ3号線。高架区間(約8.5km)は数年前に完成しているが、一向に開業する兆しがない(筆者撮影)
ハノイ3号線 駅入口
駅設備もすべて完成しているものの、数年にわたり閉ざされたままのハノイ3号線の駅入り口(筆者撮影)

円借款ではハノイ1号線、2号線が計画され、一部は借款供与済であるものの、ベトナム側から計画見直しなどを求められており、入札停止の状態が続いている。

日本の鉄道システムの有力輸出先と見られていたベトナムだが、業界での評価は一転した。同国には南北高速鉄道という超大型案件も控えており、関係者によればベトナム政府から日本側への打診もなされているそうだが、このような状況ではうかつに手を出せないと言う。これは当然だろう。もはや中国ですらベトナム案件には積極的に関わりたくないといわれている中、では日本が出ればいいというのは早計だ。そのような精神論が日本政府から出ないことを願いたい。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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