日本支援「ホーチミンメトロ」いまだ開業しない謎 「中国も手を出したがらない」ベトナムの事情

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車両は基地の工事進捗を待つ形で、2020年10月に1編成目がようやく到着、2022年5月までに全17本が搬入された。

2022年12月に最初の試運転が実施されたと一般的には報じられているが、これは厳密にはメーカーによる入線試験であり、営業運転を想定した「試運転」ではなく、とりあえず走行可能な最低限の設備で走ったに過ぎない。車両基地内に建設され、鉄道運行の要となる運行管理センター(OCC)は今年の3月に住友商事と現地建設企業のコンソーシアムから引き渡されたばかりである。

2023年12月には同プロジェクトに対し、4回目として412億2370万円の円借款供与が実施された。資料には「今次借款は輪切り4期目として、事業完了までの資金需要に対応するもの」とある。円借款はプロジェクト進捗に応じて複数回に分けて供与されるのが一般的であり、要するにこれだけの額面部分が完成していなかったことを意味する。開業予定時期から5年も遅れて新たな追加借款があることに驚かされる。

MAURは2023年8月に車両の地下区間への入線も果たされたことを受け、2024年7月開業と公表していたが、最後の借款供与から半年後に開業するなど、常識的に考えてあり得ないことである。

他都市でも開業遅れるベトナムの事情

本来なら開業予定時期の半年前ともなれば、目に見えるところでは乗務員のハンドル訓練が連日行われ、次いで実際のダイヤに則した試運転も開始されて然るべきであるが、今年5月下旬時点に至ってもこれらが実施された形跡はない。沿線住民や在留邦人による目撃談によれば、メーカーによる走行試験のみ行われているようだが、それも1日1~2往復あるかどうかといった具合である。筆者が現地に滞在していた間も、早朝に1往復が走っただけだった。

ホーチミン1号線 試験走行列車
訪問時、偶然キャッチできたホーチミンメトロ1号線の試験列車(左下)。実態は錆取り目的の走行と思われる(筆者撮影)
ホーチミン1号線 架線作業車
副本線のある2面4線構造のタンチャン駅には架線作業車が止まっていた(筆者撮影)

一方、地下駅を中心に「HITACHI」の文字が入るジャケットを羽織った作業員が出入りしており、システム関係の調整をしている様子だった。見た目ではインフラはほぼ完成しており、公称進捗率9割というのはあながち間違いではないようにも見えるが、システムインテグレートの部分が未完であることがうかがえる。

ホーチミン1号線 工事関係者
シャッターの開いている駅入り口からは「HITACHI」の文字が入るジャケットを羽織った作業員が出入りしていた(筆者撮影)

日立としてはシステム調整まで終え、一刻も早くMAURに引き渡したいはずだが、ベトナム側の事情でそれができていない。当初計画の納期から最大6年遅れとなっている中、この間の人件費、維持・管理費に加え、インフレによるコスト増分も日立側が負担している状況であり、今回の賠償請求に至ったという格好だ。設備・システム一式がベトナム側に引き渡されない限り、運営会社であるホーチミンメトロ1号線会社(HURC1)による「試運転」は開始できず、訴訟の行方次第では開業はさらに遅れることになるだろう。

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