日本支援「ホーチミンメトロ」いまだ開業しない謎 「中国も手を出したがらない」ベトナムの事情

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円借款契約そのものの遅れ、また、MAURへの予算配分の遅れの結果、受注業者への支払いが度々滞るという問題も顕在化しており、これも工事遅れに繋がっている。過去には日本側からプロジェクトの中止可能性を盛り込む勧告もなされている。

手続きの遅れによる工事遅延により直面したのが3点目の問題だ。HURC1は、2018年の開業を前提にベトナム側の資本で2015年に設立された。しかし、開業遅れにより収入が得られず、2021年に資金ショートを引き起こした。従業員への給与などの支払いが止まり、解雇を伴う人員整理が行われた。つまり、幹部以外の社員がいない中で、メーカーによる設備や車両の扱い、メンテナンス訓練などが物理的にできない状況にあった。これでは設備・システム一式が納品され、機能したとしても、引き渡しに至らない。

CP3に含まれる保守・検修に対する要員採用は2023年10月にようやくHURC1からアナウンスされたが、今年の6月にも再び追加募集が実施されているのを見ると、引き渡しはさらに遅れるかもしれない。3年の開業遅れで資金が枯渇するほど、運営会社の資金力が弱かったというのも大きな問題である。

ホーチミン1号線 地下駅出入口
ホーチミンメトロ1号線、地下区間の駅入り口。完成しているがシャッターは閉ざされたままだ(筆者撮影)
ホーチミン1号線 工事中 高架駅
駅本体は完成しているものの地上部分やアクセス部分の工事が引き続き進められている(筆者撮影)

「第三者によるシステム認証」の罠

ここまでが、現在、ホーチミンメトロ1号線プロジェクトが置かれているざっくりとした状況だ。しかし、訴訟問題が解決し、システム・設備一式がMAURに引き渡されたとしても、日本側の悩みはまだ尽きない。

プロジェクトによっては、引き渡し後は日本側の手を離れ、一定のメーカー保証期間経過後はその後に何が起きようが、開業しまいが、責任の範囲外となることもある(ミャンマーのヤンゴン環状線向け電気気動車導入案件など)。だが、近年の新たな都市鉄道を立ち上げるプロジェクトでは、開業前・開業後のO&M(オペレーション・メンテナンス)支援も含まれることが多くなっている。

ホーチミンメトロ1号線もそれにあたり、システム・設備一式が施主に引き渡し完了後、HURC1職員のハンドル訓練などの開業前支援が始まるのだ。つまり、開業するまでが日本の責任下で行われることになる。これこそが、ソフト・ハード両面からのオールジャパンインフラ輸出プロジェクトと呼ばれるゆえんでもある。

ここに4番目の問題が立ちはだかる。それが、営業認可を取得するための第三者機関によるシステム・安全性評価認証だ。

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