日韓双方の「忖度」が生んだ不毛なレーダー照射問題 安倍・文両政権の存在感薄れ「棚上げ」で解決

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2023年3月に徴用工問題の解決策を韓国の尹錫悦政権が発表して以降、日韓の外交防衛関係は飛躍的に改善している。ハイレベルの会談など、ほとんどが「5年以上ぶり」の再開を知らせる報道が目立つ。5年というのはつまり、安倍・文政権の期間である。

そのような流れを受け2023年6月、日韓の防衛相会談が約3年半ぶりに開かれ、レーダー照射問題で再発防止策に向けた協議を加速させることで一致した。

そして1年後の2024年6月。日韓の防衛相はついに再発防止策で合意した。長年、足かせとなっていた懸案が、真相解明ではなく再発防止で落ち着いた背景に、高まる北朝鮮の脅威や日韓双方の同盟国であるアメリカの強い意向が働いたことがあるのは当然だ。

不毛な対立で6年を浪費

それに加え、日韓双方で不毛な対立を助長した安倍、文両氏の存在感が確実に薄れてきたことも強く影響している。

「棚上げ」で解決が図られたことに、自民党内では「韓国の政権が代わったら(合意を)ひっくり返される隙を与えた」との反発の声が出たという。だがいつも同じようなことを言う議員がいつも通りにそのようなことを言ったという域を出ず、決して大きな流れになっていない。

韓国は与野党の政権交代により、早々と文政権の対日姿勢は塗り替えられている。

冒頭に紹介した『防衛白書』は、こうも記している。

「防衛省・自衛隊としては、長年の懸案であった火器管制レーダー照射事案の再発防止および部隊の安全確保が図られたと判断しており、自由で開かれたインド太平洋の実現のため、さまざまな分野において協力・交流を推進しつつ、引き続き、日韓・日韓米安全保障協力を強化していく」

レーダー照射問題が起きた時、ある日本政府の高位当局者は「どれだけ時間をかけてもすっきりした解決は望めそうにない。であれば、日韓の政権が代わった頃合いをみて、棚上げするしかない。不毛な対立をこのまま続けても互いに何の得にもならない」と指摘していた。

忖度で問題を拡大し、大局をみない内向き思考で解決を遠のかせる。不毛極まりない対立を落ち着かせるまでに、6年近い歳月を費した日韓だった。

箱田 哲也 朝日新聞記者

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はこだ てつや / Tetsuya Hakoda

1988年4月、朝日新聞社入社。初任地の鹿児島支局や旧産炭地の筑豊支局(福岡県)などを経て、1997年から沖縄・那覇支局で在日米軍問題を取材。朝鮮半島関係では、1994年にソウルの延世大学語学堂で韓国語研修。1999年からと2008年からの2度にわたり、ソウルで特派員生活を送った。

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