「定職に就けない」40歳男性が退職繰り返す"事情" 「仕事をしたい。社会とつながりたいんです」

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また、自社製品の買い取りを強いられることもあった。ここでも自爆営業である。金額は多いときで10万円ほど。給与が手取りで15万円ほどだったダイゴさんにとっては死活問題だった。

一方でダイゴさんにはレジの打ち間違いなどのケアレスミスが多かった。また、接客態度についてクレームを受けることもあったという。正社員としての採用だったが、仕事や人間関係になじむことができず、1年ほどで辞めた。

まずは悪質企業をなくすことが先

ダイゴさんの話を聞いていて私が違和感を覚えたのは、交通事故の労災も自爆営業も、私が指摘するまで本人はさほど問題だと感じていないことだった。

労災については「そういう制度があることを知りませんでした」、自爆営業については「会社から指示されたので……。そういうものなのかなと思っていました」とダイゴさんは言った。

その後も日雇い派遣やアルバイト、障害者雇用でも働いたが、いずれも長続きしなかった。

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持論になるが、障害のある人やひきこもり状態にある人への支援のゴールは、必ずしも就労である必要はないと考えている。働かざる者食うべからずともいわれるが、まずは悪質企業をなくすことが先だ。

特に過剰なノルマを社員に課して利益を上げているかのように装う企業は早晩淘汰されるだろうが、その前に自ら退場してほしい。郵便網が必要な社会インフラだというなら、国が一定程度公費を投入するしかない。

最近は人手不足で、選ばなければ仕事はあるとも聞くが、取材の実感では、中高年以上の転職活動は依然として厳しい。そもそも「選ばなければ仕事はある」ではなく、仕事は選べなければダメだろう。だれにでも悪質企業を拒む権利はある。

一方で働くことで社会と接点を持ちたいというダイゴさんの心情は理解できる。ただダイゴさんがつながりを求める社会の多数を占めるのは定型発達の人たちだ。そうである以上、ケアレスミスなどの障害特性を抑えるための努力や工夫、我慢はどこにいっても求められることだろう。労働法制に関する知識も自身を守るためにも身に付けるべきなのかもしれない。

ただ私は、自己責任論はもちろん「企業も悪いが、ダイゴさんも努力すべき」といった“どっちもどっち論”にもくみしない。両論とも、過剰なノルマや労災隠し、自爆営業といった構造的な問題を見えなくするだけだからだ。自己責任論がはびこることで喜ぶのはだれか、ということを私はいつも考える。

取材を通して訴えたいことは何ですか?と尋ねると、ダイゴさんはこう答えた。

「障害者に多くを求めないでほしい。両親には『つらかったね、(悪質企業から)よく逃げてきた』と言ってほしかったです」

定型発達が多数を占める私たちの社会は、ダイゴさんの訴えをどこまで受け入れることができるのだろうか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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