番組ネット配信「TVer」は"同床異夢"だった 広告代理店の焦りが生んだビジネスモデル
このアイデアが生まれた背景には、実は大手広告代理店の存在がある。 広告販売は各局がそれぞれ販売するが、その動画CM配信を行うのは大手広告代理店だ。広告代理店は、個々の局が行う見逃し視聴を販売するのではなく、ひとつにまとめてクライアントに販売したいわけである。
メディアに対して圧倒的な影響力を持つ割に、小回りの利かない代理店は、こうした効率重視のアイデアを生み出しがちだ。電子雑誌の世界では、やはり大手広告代理店がポータルストアを作ったことがある。
そもそも、ネットフリックスに代表されるような加入型映像配信サービスには、大手広告代理店が入り込む余地がない。たくさんの人が無料視聴サービスでテレビ番組を見るという環境を作り、そこに広告を中心としたビジネス環境を構築した方が利があるという「供給者側」の計算によるサービスなのである。
民放各局にある温度差
もちろん、これまで以上にVOD(ビデオ・オン・デマンド)広告が売れるのであれば、民放各局にも利益があると考えられるが、話はそう単純ではない。それぞれ異なる特徴、得意分野を持つ各局の利害は、必ずしも一致しない。このため、民放各局の温度感は大きく違う。
あくまで例だが、テレビ東京は高視聴率の番組こそ持っていないかもしれないが、人気アニメ作品やビジネス情報のオンデマンド配信など、直接販売が可能なコンテンツを得意としている。彼らにとって、TVerに参加する利点はあまりない。
フジテレビも現在の視聴率は低調だが、過去の人気テレビドラマは多く、自社で運営するフジテレビオンデマンドの売り上げは好調だという。彼らにしてみれば、有料インターネット配信が好調な時に、民放が集まって“無料で視聴できること”を前面に押し出したサービスを(たとえ、見逃し視聴目的で1週間で削除されるとはいえ)前面に出したい、とは思わないはずだ。
さらに単体で販売できるコンテンツ、少なくとも耳目を集め、視聴者が自ら見ようという意欲を持つ番組を持っているなら、共同ポータルを使うことは諸刃の剣にもなり得る。人気番組を見るためにTVerを訪問した視聴者が、視聴率が低い他局の番組視聴を押し上げる可能性があるからだ。
もっとも、それでも放送事業のみのビジネスモデルから、通信と放送を融合したビジネスモデルを作り上げていくテストケースとして、TVerに注目している関係者は多いだろう。テレビ局も”現場”ではなく、経営層の視点で見れば、NHKが構想する地上波番組のインターネット同時放送といったプランに対する、広告・無料視聴モデルの提案といった意味も考えられる。
とはいえ、この仕組みを積極的に進める“エンジン”の役目を買って出そうなテレビ局は出てこないのではないだろうか。“民放キー局”あるいは“民放連”と、まるでひとつにまとまった意思のように語りがちだが、現状、彼らが企業の枠を越えてまとまる理由が見あたらない。
コンテンツを供給する側に“エンジン”がなければ、広告代理店がいくら旗を振ったところで“新たな場”が生まれないことは、コミック配信をはじめ、過去の事例が物語っている。
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