ところがトランプさんは、あっさりとこの条件を呑んだ。逆にバイデンさんは、現職大統領であるにもかかわらず、事前に1週間もキャンプデービッドに籠って準備をする時間的余裕があった。それであれだけ一方的な結果になったのだから、面目は丸つぶれである。翌日のニューヨーク・タイムズ紙は、「バイデン氏が直面すべき真実は、みずからがテストに落第したということだ」と社説欄で指摘し、選挙戦から撤退すべきだと主張した。
老いを素直に認めたスピーチは感動的だったが……
バイデンさんはその翌日、選挙資金集めのためにノースカロライナ州で集会を行い、「私はもう自分が若くないと知っている。以前ほどスムーズに話せないし、以前ほどうまく討論もできない。ただ、私は真実を伝える方法を知っている」と訴えた。みずからの老いを正直に認める感動的なスピーチであった。
ただしバイデンさん、3月の一般教書演説でもそうだったが、いい演説をするにはテレプロンプターの助けが必要な人なのだ。当意即妙な受け答えは得意ではない。その証拠に、バイデンさんが記者会見やメディアインタビューを受けた回数はこれまでに164回。同じ時期のトランプ大統領の468回、オバマ大統領の570回に比べればはるかに少ないのだ。
さらにバイデンさんは、仮に11月にトランプさんに勝てたとしても、向こう4年間も大統領職を務めていただく必要がある。任期を終えるときには86歳になっている。あんな覚束ない調子で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や中国の習近平主席や北朝鮮の金正恩総書記の相手ができるのだろうか。トランプさんだけが敵ではないのである。
今のところバラク・オバマ元大統領を筆頭に、民主党内の重鎮たちは「バイデン擁護」の構えである。
これは理解できるところで、今からの候補者差し替えには相当なリスクを伴う。何より時間が足りないし、若くて活きのいい候補者に変えたところで、知名度が浸透しなかったり、新たなスキャンダルが飛び出したりしたら目も当てられない。
いや、それ以上に党内に亀裂が入る恐れがある。以前の当欄で「バイデン政権を悩ます『悪夢の1968年シナリオ』」(5月11日配信) をご紹介したが、あの年も現職のリンドン・ジョンソン大統領が不出馬宣言を行ったことで、民主党内はまとまり切れずに共和党のニクソン候補に敗れたのであった。
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