豊臣秀吉が現代に甦って問題企業に喝を入れたら 豊臣秀吉が現代に甦って問題企業に喝を入れたら
「コンサルなんて辞めて、もう少しお金になる仕事したら」
コンサルタント。
最近でこそ日本でも聞き慣れた職業となり、学生の人気職種になったが、仕事はピンからキリまである。大企業の経営方針策定に加わり莫大な報酬を得る仕事もあれば、中小企業の顧問となり僅かな月額契約料を貰う仕事もある。内容も採用からリストラ、現場の具体的な仕事のアドバイスまで、さまざまだ。弁護士や会計士のように明確な職域ではないため、実態がわかりにくい仕事の一つでもある。
「武田経営研究所、なんて名前からダサいし」
恋はパソコンの画面を覗き込みながら、倫太郎に言った。
「俺がつけたんじゃない」
倫太郎は鼻を鳴らした。武田経営研究所は倫太郎の祖父が設立し、コンサルタントという言葉が日本に入る前から経営指南を行う会社として知られていた。その祖父が亡くなってからは、祖父の弟で専務だった武田勝治が独立して創設した「タケダコンサルティング」が日本で有数のコンサル会社に成長し、武田経営研究所はすっかり寂れてしまった。ほぼ休眠状態だった武田経営研究所を倫太郎が継いだ形だ。
「年に数本しか仕事ないのに、よく食べていけるね」
「誰かのもとで働くくらいなら、死なない程度に生きていたほうがマシだ」
ものぐさなコンサルに舞い込んだ、ある依頼
倫太郎はめんどうくさそうに答えた。
「そもそも兄やんは、この会社継ぐまでなにしてたの。継いだの2年前でしょ」
恋はふと思い出したように尋ねた。倫太郎は自分のことを話したがらない。根掘り葉掘り聞いて、やっと一つ二つ答える程度だ。恋がアルバイトと称して事務所に出入りするのも、倫太郎の過去を聞き出したいからのようだ。それがなんのためなのか、倫太郎は深く考えないようにしている。
「いろいろだ」
「いろいろって?」
「生きていくために心を殺して手足を動かした。そんなところだ」
「具体的には?」
「そのうち教えてやるさ」
「えー。今教えてよ」
恋は鼻をふくらませて口を尖らせた。その仕草がなんとも愛らしかったが、倫太郎は素知らぬ顔で机に積まれた週刊誌を無造作に取り上げ、ページを繰った。真剣な顔で水着姿の女優のグラビアに目を落とす。
電話が鳴った。
どこか壊れているのか、年季の入ったビジネスフォンが調子外れの音を鳴らす。
「出てくれ」
倫太郎はグラビアから目を離さず言った。恋は溜め息をつき受話器を取った。
「武田経営研究所です」
恋は高い明るい声で電話に出た。それまでのしゃがれ声とはえらい違いだ。しばらくやりとりを続けてから受話器を置いた。
「仕事が決まったよ!」
「仕事?」
「タケダコンサルティングから!」
倫太郎は思い切り溜め息をついた。
「なに嫌そうな顔してんの! そもそもタケダコンサルティングからしか仕事来ないじゃない。ありがたく思いなさいよ」
恋は声を歪ませた。今の武田経営研究所は、タケダコンサルティングからの紹介以外に仕事はない。
「そもそも兄やんは営業しないんだから」
「俺は営業マンじゃねぇ。コンサルタントだ」
「だったら、さっさと仕事しなさいよ!」
恋は、机に置いてあったぺちゃんこの鞄を手に取り、それを押し付けた。
「今から、すぐに打ち合わせしたいそうよ」
倫太郎は舌打ちした。
「今から? 俺は、今すぐとか急ぎとかいう言葉は大嫌いだ。そんなに生き急いでなんになる。俺にとっての〝すぐ〞は明日の昼以降……」
「つべこべ言わず、さっさと行く!」
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