豊臣秀吉が現代に甦って問題企業に喝を入れたら 豊臣秀吉が現代に甦って問題企業に喝を入れたら
「今年は暑くなるなぁ……」
開け放たれた窓から外を見ながら、武田倫太郎はうんざりした調子でつぶやいた。西新宿にある雑居ビルの3階。窓の外に見えるのはコンクリートの壁だけだ。8坪ほどの狭い事務所には机が2台。倫太郎の机にはうず高く書類が積まれ、缶コーヒーや缶ビール、お菓子の袋が散乱しタバコの灰や吸い殻まで落ちている。
倫太郎は今年で36歳、独身だ。よれよれのワイシャツの袖を腕まくりし、折り目がない短めの黒いスラックスを膝上までまくり上げている。天然パーマの髪に無精髭で清潔感とはほど遠いが、つぶらな瞳に長いまつ毛を蓄え、しかも鼻筋が通っているため、身なりを整えればそれなりに見えるだろう。長身の身体を窮屈そうに屈め、椅子に収めている。
「いい加減クーラーつけたら」
窓の外をぼんやりと見ている倫太郎の背後から、乱暴に扉を開ける音とともに声がした。ハスキーな若い女の声だ。
「電気代がもったいない。今月、まだ売上ないからな」
倫太郎は声のほうを見ずに答えた。振り向かなくとも誰かはわかる。妹の恋だ。
「売上ないのはアタシのせいじゃないし、暑いと仕事の効率悪くなるでしょ!」
背後で古いエアコンが変な音を立てて動き出した。そして窓が閉められる。
義妹に叱責され続ける倫太郎
「またここでタバコ吸ったでしょ!」
倫太郎は舌打ちし、ようやく恋のほうに身体を向けた。金髪に黒いキャミソール、ホットパンツにハイヒール。いかにもギャルというファッションだ。今日は大きなサングラスを頭に乗せている。恋は22歳。都内の女子大に通う4回生だ。
「お前、今日、大学じゃなかったのか?」
「休講になったのよ」
恋は、倫太郎とは腹違いの妹だ。倫太郎の父親は、ちょうど23年前に母と倫太郎を残して家を出た。恋は父親の再婚相手との子である。父親は入婿だったため、母と離婚が成立してからは旧姓の山内に戻していた。したがって恋の姓は山内。山内恋である。
ふたりは3年前に他界した父の葬式で初めて顔を合わせた。
「いくらボロいビルだからって一応、禁煙なの知ってるでしょ。吸うなとは言わないけど喫煙所に行ってよ」
恋は文句を言いながら鞄からノートパソコンを取り出し、起動するまでに長い髪を手早くまとめた。倫太郎のどこが気に入ったのか、1年ほど前から倫太郎の仕事を手伝っている。
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