モノづくりが大好きで、テレビはほとんど観ないという和之さん。老成した雰囲気があり、同じような趣味嗜好を持つ英子さんは年齢差を感じたことがない。
「でも、私はできれば和之さんの子どもを産んでみたかったです。結婚したときは閉経していなかったのですが、彼は食生活をはじめとするすべてに『自然』を望む人で不妊治療には賛同しませんでした。私の体を気遣ってくれたのかもしれません。彼に子育てをさせてあげられないことは申し訳なくて、最近は里親になる研修を受けたりしています」
直感でつかんだ深い安心感
子どもに関してはまだ割り切れない想いがある英子さんだが、いつも穏やかでときどき面白いことを言う和之さんが毎日隣に寝てくれることに深い安心感を覚えている。日常生活では主婦として家事を担い、和之さんに毎朝お弁当を作って持たせつつ、新天地で学び直した芸術分野に打ち込んでいる英子さん。現在は仲間と共同で作業場を構えるまでになった。
「私は意外と真面目なところがあって、仕事に打ち込みすぎて腱鞘炎になったりすると気持ちがキュッと狭くなったり集中できなくなったりします。和之さんはそんなときに『制作を楽しめばいいんじゃないかな』と肩の力が抜けるような言葉をかけてくれるんです。土日は得意の納豆料理を作ってくれたり(笑)。しんどいときは必ず手を差し伸べてくれます」
苦しいことがあってもなんとか前向きに生きていると、仕事でもプライベートでも変化や成長のチャンスがごくたまに訪れる。ただし、それはなりふり構わずにつかみ取って数年経ってから「あれが自分にとっての好機だったんだ」と知るにすぎない。予告も気配もなくやって来る幸運の女神が一瞬だけ差し出す手は目には見えないのだ。英子さんは直感に従い、勇気を振り絞ってその手をつかんだからこそ今がある。
ランチの後、英子さんの車で山の中にある静かな作業場に行き、優しそうな仲間とその愛犬を紹介してもらった。英子さんが果敢な行動で得た喜びと安心は、和之さんだけでなく、移住先で出会った人たちにも温かく影響していると感じた。
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