ワームホールやワープドライブの科学的可能性 タイムトラベルから見る「時間」とは?
アインシュタインのモデルでは、宇宙全体がユークリッド空間とは異なる構造をしていますが、ワームホールは、こうした非ユークリッド的な構造が局所的に形成されたものです。広い範囲をざっと眺めるとユークリッド幾何学が成り立つように見えるけれども、ある部分に注目すると、離れた2点を直線よりも短距離でつなぐ抜け道が隠されているのです。このつながった部分が、宇宙空間の中に生じたワームホール(虫食い穴)です。ワームホールは、ユークリッド幾何学を逸脱した特殊な構造ですが、一般相対論の式を用いて議論することが可能です。
映画『インターステラー』のワームホール
ワームホールが視覚的に描かれたのが、2014年のアメリカ映画『インターステラー』です。ワームホールの端がどうなっているか理論的に確定していませんが、あるモデルでは、外からはブラックホールのように見えるとされます。
ブラックホールは光すら脱出できない天体であり、真っ黒な球体のように見えます(2019年に撮影されたブラックホールの写真は、周囲がリング状に輝いていますが、これは、背後にある天体からの光がブラックホールの重力で曲げられたものです)。
映画は、人類とは別の知性が建造したワームホールの端が、土星近くに黒い球体として出現するところから始まります。
絶滅の危機に瀕していた人類は、ハビタブル(生存が可能)な惑星を目指して先遣隊に突入させますが、ワームホールを通過した主人公が何を目撃するかが、物語のテーマとなります。
ところで、『インターステラー』に描かれたような、ワープを可能にするワームホールは、現実に存在するのでしょうか?
SFファンの期待に反するようですが、その可能性は、きわめて低いと言わざるを得ません。
ワームホールは、自然に生じるような構造ではありません。
宇宙の始まりであるビッグバンの時点で、エネルギー分布は非常に滑らかであり、時空がねじ曲がった虫食い穴のような構造が、天文学的スケールで偶然できてしまうとは、考えにくいのです。
また、たとえワームホールが何らかの仕組みで形成されたとしても、その構造は不安定で、一瞬でつぶれ消滅してしまいます。ワームホールを維持するためには、エキゾチック物質と呼ばれる、これまで人類が見たこともないような不思議な物質を支持材としなければなりません。
こんな話を聞けば、ワームホールはありそうもないとわかるでしょう。
ところが、一流物理学者の中にも、ワームホールについて真剣に研究している人が少なからずいます。
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