息を吹き返す東京電力、電気料金値上げも浮上、貧乏くじを引く原発事故被害者と利用者
廃炉費用がかさみジリジリと財務毀損も
ほんの数カ月前まで「死に体」だった東電だが、機構法という延命策で情勢が大きく変わったことは間違いない。しかし、これで事故前の姿に戻れるかというと、それは無理だろう。
最大の「不確定要素」(岸教授)は、リストラ監視役である経営・財務調査委員会の存在だ。東電は今期、人件費や修繕費などの圧縮で5000億円の経費を削減するとしている。が、調査委は「他業種に比べて、給与や企業年金などを含めたトータルな人件費が高い感は否めない」(下河辺和彦委員長)との認識を示しており、「5000億円を超えるリストラを委員会から迫られる可能性もある」(東電関係者)。
人件費については現状で給与の2割削減にとどまっているが、企業年金減額や人員削減なども「調査委では議論の対象となっている」(西澤社長)。燃料などの調達についても「相手の言い値どおり通常の3倍近い価格で買っており、この点も問題視されている」(関係者)。
調査委自体は報告書提出で役割を終え、その後は新設の機構が東電の運営を監視していくことになる。ただ、機構には調査委のメンバーが参加するとみられ、一度は後退した分離論も再燃しかねない。
拠り所となっている機構法そのものが見直される可能性もある。今回、政府は原賠法見直し後、2年以内に東電と政府、他の電力会社の負担と、株主など利害関係者の負担のあり方を検討するとしており、盤石な支援態勢がいつまで続くかは見通しにくい。すでに、中部電力が一般負担金の支払いに難色を示すなど、「オールジャパン」態勢は出だしから波乱含みである。
こうした“バランス”が崩れれば当然、金融機関の融資スタンスも変わるリスクがある。そもそも、「(政府保証があっても)東電向けの債権は増える方向にあるが、銀行が融資残高を増やしていけるかは不透明感が強い」(S&Pの柴田氏)。