息を吹き返す東京電力、電気料金値上げも浮上、貧乏くじを引く原発事故被害者と利用者
機構法の成立は東電にとってまさに「久々のポジティブなニュース」(スタンダード&プアーズ上席アナリストの柴田宏樹氏)。事故後、フリーフォール状態だった東電債の格付けも、機構法成立以降は見直しがない。
東電は今後、経営・財務調査委員会が9月下旬に出す調査報告書に基づいて、10月には特別事業計画書を策定する予定。同時に賠償については9月から受け付けを始め、10月から本払いを開始する。この間にも、新設される機構へ資金援助要請をするとみられており、「これまでわからなかった、時間軸での動きが見えるようになった」(寺澤氏)。
事故後浮上した、東電“解体”論もトーンダウンしつつある。
仙谷由人・元官房長官率いる経営・財務調査委員会は当初、資産査定を足掛かりに、「発送電分離」に踏み込むともみられていた。「事業を行う『グッド東電』と、賠償を行う『バッド東電』に分け、グッド東電に優秀な人材を集めて最強集団を作ろうという構想もあった」と、ある関係者は話す。が、首相交代を挟んで、民主党内で「東電に対する関心が薄くなっている」(同)こともあり、調査委がどこまで踏み込めるかが微妙になってきた。
一連の動きの背景には、監督官庁である経産省の力添えもある。そもそも機構法の素案となった「賠償スキーム」は大手銀行の案をたたき台に経産省が作成。「当初は官邸も出来が悪いと考えたらしいが、金を出したくない財務省と東電を守りたい経産省に押されて、追認してしまった」(元経産官僚で、東電問題に詳しい慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の岸博幸教授)。
一時は経産省内でも発送電分離案が浮上したが、「今は推進派でさえ、『東電を存続させることになったのだから分離は無理』と、考え方が後退している」(岸教授)。
当の東電も「(賠償を行うだけでは)何のために会社があるのかがわからなくなる」(西澤社長)と言い切る。今後は「おカネのない中でも、必要な事業投資は続けたい」(同)と意欲を見せている。