ムーディーズが日本国債を「Aa3」に格下げし、見通しを「安定的」とした理由《ムーディーズの業界分析》

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SVP−リージョナル・クレジット・オフィサー
トーマス・バーン

ムーディーズは2011年8月24日、日本国債の格付けをAa2からAa3に引き下げると発表した。これは、5月31日に開始した格付け見直しの結論である。今回の格下げは、多額の財政赤字と、09年の世界的な景気後退以降の政府債務の増大を受けたものである。債務の対GDP比上昇の抑制を困難にしているいくつかの要因が、今回の格付けアクションの根拠となった。

1. 3月の大震災と原発事故による深刻な影響を受け、09年の世界的景気後退からの回復が遅れたことで、政府債務が大幅に増加し、デフレが悪化した。

2. 日本の中期的な潜在成長率は極めて低く、緊縮財政措置と改革へ向けた政策の実施を困難にしている。

3. 政府の財政改革案は部分的、暫定的なものにとどまり、実施が長期にわたるため、国内の政治的変化とグローバルなショックの影響を受けやすい。

4. 政策の継続性の欠如。過去6年の頻繁な首相交代が、長期的な経済・財政戦略の実施を妨げてきた。

格付けと「安定的」との見通しは、弱まりを見せない日本の投資家の国内投資志向と、国債選好を背景として、政府は財政赤字を補填てんする資金を世界で最低水準の名目金利で調達できることを根拠としている。この有利なコストでの調達は、日本の顕著な制度的および構造的強さによって引き続き支えられ、今年度および来年度に多額の財政赤字が発生しても、調達コストの優位性は持続する、とムーディーズは考えている。しかし、債務動向を安定化させないかぎり、ある時点で巨額の債務がリファイナンスリスクをもたらす可能性がある。

図1:プライマリーバランスのシナリオ(対GDP比)

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図2:政府債務のシナリオ(対GDP比)

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