それでもなぜトランプは熱狂的に支持されるのか 幸福な国は「怪物」を大統領に選んだりしない

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格差の実態を至近のデータでみてみよう。

2023年第3四半期のアメリカの世帯資産をみると、上位10%が全世帯資産の総計の66・6%を占めている。このグループの平均世帯資産は650万ドルだから円換算すると10億円近い。これに対し下位50%の世帯資産は全体の2・6%を占めるだけだ。このグループの平均世帯資産は5万ドルだから、750万円程度だ。アメリカが人口10人の国家だと仮定すると、10人の資産合計の7割を1人が握っており、下位の5人の資産は全員分合わせても一人の金持ちの25分の1程度ということになる。やる気を失わせるような格差ではないか。さらに学歴での資産格差をみると、高卒が世帯主の家族は大卒の家族の5分の1ほど、さらに高校中退以下となると10分の1である(The State of U.S. Wealth Inequality, Feb. 05, 2024, Institute for Economic Equity, Federal Reserve Bank of St.Louis.)。

統計数字を並べてもピンとこないだろう。ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットという三人の富豪の資産を合計すると、アメリカ国民の下位50%の資産合計額に並ぶといったら、これがまともな国かと思うだろう(ニコラス・D・クリストル、シェリル・ウーダン『絶望死――労働者階級の命を奪う「病」』村田綾子訳、朝日新聞出版、2021年、32頁)。

格差がトランプを生んだ

こうしたすさまじい格差の底辺で、資産のみならず学歴も世襲されて固定化した階層社会ができあがった。

そこをはい上がることのできない低学歴の白人労働者階級の間では、死亡率が上がっている。自殺、薬物中毒、過剰な飲酒に起因する肝疾患を原因とする彼らの死は「絶望死」と名付けられるようになった。他の先進国にはみられない異様な事態だ。「封建社会」どころか、死者まで生み出すのだから、今日のアメリカの資本主義は暴虐な圧政に似た状況を生んでいるともいえる。

そうして「絶望している国(人々)」がトランプを生んだのである。トランプが格差を生んだのではない、格差がトランプを生んだのだ。

会田 弘継 ジャーナリスト・思想史家

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あいだ・ひろつぐ / Hirotsugu Aida

1951年生まれ。東京外国語大学英米語科卒業。共同通信社ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。その後、青山学院大学教授、関西大学客員教授を務め現在に至る。著書に『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)など。訳書にフランシス・フクヤマ『政治の衰退』(講談社)など。

 

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