ギリシャ離脱か残留か、悲劇は最終幕へ 猶予は72時間、歯車一つの狂いも許されない

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その場合、ギリシャの銀行破綻は避けられず、金融システムは崩壊の危機に瀕する。20日の支払いを可能にする秘策として、ECBがELAの利用上限を引き上げ、引き上げた分の銀行への流動性供給額をユーロ圏各国政府が保証する案が一部で取り沙汰されている。政府短期証券の発行上限を同時に引き上げれば、ECBから追加で供給された資金で銀行が政府短期証券を購入し、政府はそれを原資に国債の返済に充てることが可能というわけだ。だが、こうした措置は事実上の財政ファイナンスに相当する恐れがあり、ECBが受け入れるのは難しい。

ギリシャ現政権の崩壊で時間切れも

債権者側の厳しい姿勢がギリシャの政局流動化を招く恐れもある。ツィプラス政権が新たな財政再建策を債権者と協議する賛否を巡って行われた11日未明のギリシャ議会での採決は、連立与党内の強硬な緊縮見直し派の一部が政権の方針を支持しなかったが、ユーロ残留を希望する主要な野党勢が協力したことで賛成多数で可決した。

ただ、債権者からの追加緊縮要求に急進左派連合内の強硬派が反発を強めることは必至だ。支援獲得を目指す国民投票後の政権の方針転換や、銀行の営業停止の長期化による国民生活への打撃を受け、ギリシャ国民の政権批判が徐々に広がる恐れもある。支援開始に先駆けてギリシャ議会では緊縮関連法案の議会採決が必要となるが、その過程で連立政権が崩壊する恐れがある。

連立崩壊時に議会の解散・総選挙を行っている時間はギリシャに残されていない。連立組み替えや挙国一致内閣の発足で支援協議を早期にまとめなければ、ギリシャの銀行破綻やユーロ離脱が一段と現実味を帯びる。

中長期的な課題はさておき、債権者からの信頼回復、支援条件でのさらなる譲歩、ギリシャ議会での法案可決、全会一致の支援決定、一部支援国での議会承認、つなぎ資金の手法、ELAの供給継続、銀行の破綻回避、政局流動化の封じ込めなど、早急に解決しなければならない問題が山積で、ギリシャに残された時間は余りに少ない。

何か一つの歯車が狂ってもギリシャ支援は暗礁に乗り上げる。古代のギリシャ悲劇の多くは、最後に登場する神が事態を収拾して閉幕すると聞く。この複雑にもつれた糸をほどく秘策はあるのか、ギリシャのユーロ圏での将来を左右する最終幕がいま始まろうとしている。
 

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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