「配属ガチャ」を嘆く人と異動できる人の決定的差 米任天堂元社長の「チャンスを広げる働き方」
つまり本書は企業再生ドキュメントでありながら、それを通じて個人の立身出世ストーリーを読み取ることもできるのです。
ビジネス書などで、よく「一社員であっても経営者の目線で考えよ」といった文言を見かけますが、そんなことは、ほぼできないだろうというのが僕の考えです。経営者と一社員とでは、持っている情報に格段の差があるからです。事業の背景事情から隠れたリスクまで、一社員では知り得ないことがたくさんある。もちろん権限も非常に限られています。そんな立場の違いによる情報格差・権限の違いを超えて、「経営者と同じ目線で考えよ」というほうが無理筋でしょう。
といっても、ひたすら経営陣が示す方針に従い、与えられる仕事を流れ作業でこなしていればいいかといえば、そうではありません。今、目の前にある業務に、自分が知りうる情報と武器をもって全力で取り組めば、必ず道は拓け、チャンスをつかめる。本書は、著者自身の体験を通じて、そのことを教えてくれています。
働く者すべてに「信念」が必要
本書の中で著者は「信念」の重要性を説いています。「情報や権限が限られている中でも、目の前の仕事をしっかりとこなす」という働き方の根底にあったのも、おそらく、揺るぎない信念なのでしょう。
たびたび岩田聡氏(任天堂前社長)や本社幹部に異論を唱えたり説得にかかったりするエピソードも出てきますが、それも信念ゆえのこと。特に「任天堂の再生をかけた大勝負」として挑んだゲームイベント「E3」で、自分が考えるベストなプレゼンをするために周囲を説得するくだりでは、過去のE3に対する不満を踏まえて「何としても成功させる」「そのためには周囲と衝突することもいとわない」という著者の熱い思いが伝わってきました。
著者は強い信念をもって自分の仕事に取り組んでいるからこそ、その思いをぶつけて相手を説得しにかかる。その真意を図りかねたり、賛同しかねたりする相手に対して、さらに食い下がる。当然、議論が巻き起こることになりますが、それこそが企業の伸び代の証しであり、イノベーションや他にない価値の創出につながっていくのです。
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