プーチン訪朝でもロ朝の軍事的重要性は薄い インフラ整備など経済協力も発展・拡大するか未知数

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もちろん例外はあります。ロシアは中国などアジア諸国との貿易量が急増していますが、ウラジオストクをはじめとするロシアの港は需要に対応できるほどの管理・運営能力がありません。そのため、今後、北朝鮮の港を利用する機会が生じれば大きな助けになります。

ロシアは今、北朝鮮北東部・羅津港で埠頭を1つ借りています。今後、埠頭の数カ所を借りることがあるかもしれません。これらの埠頭をロシアの鉄道と同じ広軌でロシアの鉄道ネットワークと連結できれば、ロシアで物資を早く受け取り、船積みし、目的地まで送ることができるようになるでしょう。こういったプロジェクトは実現可能性があります。

一方、地下資源の開発は、ロシアにとってそれほど魅力的ではありません。初期の投資規模が大きく、その利益も投資側にとって長い時間が必要となるためです。

投資した後、5~10年の間に政治・経済分野で大きな変化が生じる可能性もあります。それだけでなく、中国など外国企業の経験からわかるように、北朝鮮は約束を守らない傾向があります。その例として、中国・遼寧省の西洋集団が2012年に明らかにした鉱山投資事件が挙げられます。北朝鮮から一方的に契約を解除され、現地から退去させられた事件でした。

最も見通しが明るい経済協力のやり方は、北朝鮮労働者の受け入れです。ロシアは今、労働力不足が深刻です。数万人規模の労働者を受け入れることができます。それにもかかわらず、客観的な限界を考えると、ロ朝の経済関係がより活発化する可能性は見えないと私は思います。

北朝鮮外交の勝利

――プーチン大統領は北朝鮮に続き、ベトナムを訪問しました。プーチン氏がいま、北東アジア情勢をどのように認識したうえで、今回の外遊を行ったのでしょうか。

アンドレイ・ランコフ/1963年、旧ソ連・レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。レニングラード国立大学を卒業後、同大学の博士課程を修了。金日成総合大学に留学した経験もある。母校やオーストラリア国立大学などで教鞭をとった後、現職。著書に、『平壌の我慢強い庶民たち』『スターリンから金日成へ』『民衆の北朝鮮』『北朝鮮の核心』など邦訳も多数(写真・ランコフ氏提供)

2022年にウクライナとの戦争が始まったときから、「ロシアはアメリカに反対するグローバルサウスの先鋒である」と自らを描いてきました。アメリカによる一極覇権に対して不満を感じる多くの国の気持ちを動員して、自国の利益に合わせて利用したいとしています。

そのため、プーチン氏をはじめロシアの指導層はより多くのアジア・アフリカ諸国を訪問し、彼らとの協力を強化しようとしています。ロシアが今後、自分たちの能力不足でそういった希望を実現できなくても、現段階でこのように行動することでロシアが望ましいと考えるイメージは形成できます。

――結局、金総書記にとって、今回のプーチン訪朝はどのような意味があったのでしょうか。

大きな意味があったと思います。2023年末から北朝鮮メディアはロシアに関する報道を増やし始めました。実際に経済的依存度が高い中国に関する報道より数倍の量のロシア報道を行いました。

これは当然、北朝鮮がロシアに対して一種のシグナルを発しているということです。金総書記もプーチン大統領に会おうと平壌空港まで出向いただけでなく、ロシアの航空機の到着時刻が予定より大幅に遅れても、午前3時まで到着を待ちました。これもまた、北朝鮮がロシアに対する期待がどれだけ大きいかを示すものです。

金総書記は当然、ロシアから何かを得たいと思っていました。おそらく、最も重要なロシアからのプレゼントは軍事同盟まで含めた新たな条約でした。また、われわれが現在知ることができないプレゼントが今後、あるのかもしれません。

金総書記はプーチン訪朝が終わったことに満足しているでしょう。これは、北朝鮮外交の勝利です。多くの人が思っているほど大きな成果ではないにしろ、それでも外交の成功事例だったことは確実です。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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