「猫派の一条天皇」飼い犬に命じた"恐ろしい処罰" 中宮や清少納言も同情した「翁丸」の悲しい逸話
ところが、おもとは、熟睡しており、うんともすんとも言わない。少し脅かしてやろうと、馬の命婦は、側にいた犬の「翁丸」にこう命じます。「翁丸は、何をしているの。この悪い子の命婦のおもとを噛んでやりなさい」と。
馬の命婦は半分冗談でそう言ったようですが、犬にはそんなことはわかりません。バッとおもとに飛びつきました。するとさすがに猫のおもとはびっくりして飛び起き、慌てて、御簾のなかに逃げ込んでいきました。
ところがちょうどそのとき、帝が朝食の間にいらっしゃったことから、おもとがおびえて走ってくるのを目撃してしまいます。
帝もびっくりされて、可愛い猫のおもとを懐に入れてやります。そのうえで、蔵人(天皇の秘書的役割を果たした官人)をお呼びになりました。すると、すぐに蔵人の源忠隆と「なりなか」という者が御前に参上しました。
配流が決まってしまった犬の翁丸
おもとがおびえて走り込んできた事情をすでにご存じだった帝は、「不届者の翁丸を打ちこらしめたうえに、犬島に流せ。すぐにだ」と彼らに命じました。
帝の怒りは馬の命婦にも及び「おもとのお世話係をほかの者に代えてしまおう。このようなことでは安心できない」とおっしゃったのです。馬の命婦は、帝のお怒りを恐れて、御前に顔も出せない状態でした。
さて「不届者」の翁丸は打たれるうえに、配流が決まったのですが、罰を与えるためには、捕まえないといけません。そこで、みんなで翁丸を捕まえようとしたそうです。
捕まえる最中(一体、自分は何をやっているのだろう)と疑問に思った人はいたのでしょうか。いや、みんな、捕まえることに精一杯だったに違いありません。
清少納言は、この犬の翁丸に同情していたようです。『枕草子』には、「本当に可哀そうに。最近まで威張った顔して歩いていたのに」「中宮のお食事のときには、お余りを頂こうと、庭先にきて、こちらを向いてかしこまっていたのに。いなくなってしまい、つまらない」などと書いています。
ところが、それから3、4日ほど経ったある日の昼頃。犬が激しく鳴く声が、清少納言の耳に届きます。しかも、その声は全然やみません。
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