「猫派の一条天皇」飼い犬に命じた"恐ろしい処罰" 中宮や清少納言も同情した「翁丸」の悲しい逸話
何だろうと思い、人間ばかりか、御所にいた犬までも、鳴き声が聞こえる方に向かっていきます。
すると1人の女性が清少納言のほうに駆けつけて「大変です。犬を2人の蔵人が打ちのめしているのです。このままでは、死んでしまう。帝が流罪を命じた犬が帰ってきたというので、どうやら懲らしめているとのことです」と言うではありませんか。
その報告を聞いた清少納言は(嫌な知らせだ。やはり、翁丸だったのだ)と思ったようです。
清少納言はそれを止めるために、報せを伝えに来た女性を走らせます。しばらく経つと、犬の鳴き声はやみました。
体が腫れたひどい状態の犬が歩く姿
その女性が清少納言のもとに帰ってくるやいなや「犬は死んでしまったので、御門の外に放り捨てられました」と話します。「何と酷いことを」と女房らが噂するなか、夕方に、体が腫れ上がってひどい状態になった犬が、苦しそうにヒョロヒョロと歩く姿が目撃されます。
清少納言もその姿を見て「翁丸だろうか。最近、こんな犬がうろついていたかしら」と声を上げました。誰かが「翁丸」と声をかけますが、その犬は見向きもしません。
「やっぱり翁丸では」「いや、そんなはずはない」といったような状況で、人々の意見は二分します。このままでは収拾がつかないので、中宮が「右近ならばわかるだろう。右近を呼んでおいで」との提案をされました。
呼び出された右近は、翁丸か否かの鑑定を任されることになります。体が腫れ上がった犬を見た右近は「翁丸に似てはいますが、あまりにみすぼらしい。それに翁丸なら呼べば、喜んで飛んでくるはずです。この犬は呼んでもやって来ない。どうも違うようですね。蔵人から、翁丸は打ち殺して、死骸は捨てたとの報告もありました。男が2人で打ちのめせば、命は助からないでしょう」との鑑定をくだしました。
それを聞かれていた中宮は眉をひそめ(酷いことを……)と悲しんだご様子だったようです。
日が暮れてから、その犬に食べ物を与えようとしましたが、犬は食べませんでした。そのため、女房たちもその犬は、翁丸とは別の犬ということにしたようですね。
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