通行人相手に駅前で政治家が行う街頭演説を「駅立ち」というが、野田新首相は財務相となる昨年6月まで23年余、ほぼ毎日、選挙区のJR船橋駅前などで駅立ちを続けてきたという。それだけに演説力には定評がある。
代表選後のスピーチでも、「泥鰌の持ち味」「雪の坂道で雪だるまを押し上げる」など、巧みな表現を随所にちりばめたが、当意即妙の受け答えの才よりも、練りに練った言葉で聴衆に信条と真情を伝えるのが身上だ。
だが、一対一で何度かインタビューした経験からいえば、能弁・快弁イメージとは違って、深慮・熟考型で慎重姿勢という一面がうかがえる。「ドスンパンチ」という愛称があるそうだが、風貌とイメージからの連想で「西郷どん」とニックネームもある。機動力や切れ味はいま一つだが、西郷隆盛のように、低い重心と包容力が強みと言う人もいる。
小沢代表時代に話を聞いたとき、トップがすぐにつまずいて簡単に交代になる民主党の現象について質問したら、「リーダーの責任は、果たすか取るかしかない。民主党は取らせることばかりやってきた。でも、リーダーを選んだ側のフォロワーとしての責任感のなさを感じる。このフォロワーシップの問題がリーダー短命の原因だと思う。民主党はリーダーの使い捨てでいろんなことを乗り切ってきたが、いったん選んだらとことん支えていく。それが重要」という答えが返ってきた。
「では、トップに立つ人が心がけるべきことは」と畳みかけて聞くと、野田氏は「そういう空気でみんなが自分を支えていることをトップ自身が自覚すること。そこでわがままになってはいけない」と笑いながら語った。
2年間で首相2人というトップ短命党の体質と構造はいまも変わりがない。
先週、いま必要なのは「重厚・安定・調和・実現力の統合型首相」と書いたが、「西郷どん」が、低い重心と包容力で、民主党内だけでなく、国民全体のフォロワーシップを引き出すことに成功すれば、機能不全の政治、迷走・内紛・脱線続きの民主党政権という危機的状況からの脱出は、まず半分くらいは前に進むのではないか。
本格勝負はそれからだろう。
(撮影:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら