「最大の効果は市民活動が活発になったこと、市民力がついたこと」――。市役所職員として長く開業対策に携わり、県内の観光関係者がつくるネットワーク「あおもり観光デザイン会議」の事務局を務める櫻田宏氏は、前述の新幹線フォーラムでこう証言した。
「弘前感交劇場」の構想を体現するため、新青森開業の2年前から、観光に関心を持つ市民や事業者が毎週水曜日の夕方、さまざまなプランを持ち寄る会合を開いていた。プランの全てが実現したわけではないが、この会合が起点となって「何か行動を起こそう」という意識が市民に広がった。
それが数字に表れたのが、市が2011年度にスタートさせた事業「市民参加型まちづくり1%システム」だ、と櫻田氏は指摘する。個人住民税の1%を財源として、市民から活動企画を公募し、審査を経て事業費の90%、上限50万円を補助する仕組みだ。
アイデンティティ揺らぐ青森市
「採択件数は初年度の23件から43件、50件、2014年度は58件に伸びている。新幹線開業を契機として、市民がさまざまな活動に取り組んだことで自信がつき、さらに波及している。『自分たちも何かできるんだ』という意識が定着した。新幹線の駅はないが、弘前は『いちばんにぎやかに騒ごう』というつもりだった」と櫻田氏は振り返った。
八戸、弘前両市の反応に比べ、青森市はやや精彩を欠いている。新青森駅は、市中心部にある在来線の青森駅から4キロメートル西方に立地し、長距離ターミナルが街中から移転してしまった。加えて、新青森開業に先駆けて、東北新幹線の全線開通から5年余り後に北海道新幹線が開業することが決まり、新青森駅が「途中駅」となる日程が確定した。
一連のプロセスで、多くの面で不便になっただけでなく、明治時代から続く交通都市としてのアイデンティティが揺らいでしまったことが、市内に不満と不安をもたらした。
青森市民の名誉のために付け加えれば、新青森駅の現在地を選択したのは市民ではない。北海道への速達性を重視して、現在地を主張する国鉄と、在来線駅への併設を主張する青森市は、約8年にわたって対立を続けた経緯がある。また、東北新幹線の盛岡開業以降、盛岡市の都市としての成長を目の当たりにした青森市民に、今なお「終着駅効果」を過大評価する傾向があることは否めない。
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