東北新幹線の延伸で沿線都市が得た「果実」 観光業の活性化だけでは残念すぎる

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それでも、新たな動きが青森市でも生まれた。新青森開業時、大人たちがしらける姿にいたたまれず、市内の高校生50人余りが団体「クリエイト」を組織し、独自の開業歓迎イベントを企画・実行した。中心メンバーは大学進学や就職を経て、「クリエイト」をNPO法人に改組。現在は、大学生や社会人を「教師」として高校生が社会を学ぶ活動「まち塾」を展開している。青森市にどの程度、観光・経済面の開業効果が及んでいるのか、実態は必ずしも明らかではないが、新幹線開業が「市民が市民を育てる」活動を生み出したことだけは間違いない。

新幹線開業が沿線にもたらす変化や効果は、あまりに狭く捉えられ、論じられてきたのではないか。青森県内の実例を見ていると、そう思われてならない。

欠かせない市民の視点と評価

詳細は割愛するが、筆者は2004年に八戸市一円で、2014年に青森・弘前・八戸の3市で、新幹線開業が市民の意識に及ぼした変化を調査し、公表した。しかし、一般の住民を対象にした新幹線開業の影響調査は、熊本市のシンクタンクが九州新幹線全線開業に際してネット調査を実施した事例が見つかる程度で、公表されたデータ自体が極めて少ない。

新幹線を熱心に誘致してきた沿線各地の自治体が、なぜ、住民に及んだ影響や効果を検証しないのか。そもそも、観光・経済面以外の影響や効果に関する議論がなぜ高まらないのか。この不可思議な現象そのものが、新幹線各線の構造的な課題を提起しているように思われてならない。

あらためて確認すれば、東北(盛岡以北)、九州、北陸、北海道の各新幹線は「整備新幹線」のスキームによって建設された。沿線自治体は、並行する在来線の経営をJRグループから分離することに同意したものの、特急列車の廃止や運賃の値上げによって、大きな負荷が加わった地域は少なくない。さらに地元道県は、数千億円規模の建設費負担を受け入れてもいる。本稿で取り上げた青森・弘前・八戸の3市やその周辺でも、手放しで喜べない現象が散見されている。

筆者が北陸新幹線沿線で続けている調査では、懸念される状況がすでにいくつか現れている。来春に開業を控えた北海道新幹線沿線も不安材料は多い。これらを適切に観察・検証し、対策を講じていくうえで、貴重なヒントが東北新幹線沿線にはいくつかあるのではないか。最も重要なポイントのひとつは「住民の視点に立った評価と対策」だと感じている。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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