東北新幹線の延伸で沿線都市が得た「果実」

観光業の活性化だけでは残念すぎる

開業の直前まで、行政と経済界、市民の動きは必ずしもかみ合っていなかった。「最も変わったのは、市と商工会議所、コンベンション協会が開業対策の方向性を共有でき、事業に一緒に関わっているという意識を持てたこと」と塚原氏。観光振興の成功が新幹線の効果なのではなく、それを実現した意識と仕組みの形成こそが効果だというのだ。

東北新幹線の新青森延伸後も、懸念された地盤沈下は起きず、市民はさらに自信を深めた。中心市街地には市民活動の拠点として、「八戸ポータルミュージアム」を名乗る文化交流施設「はっち」がオープンし、活況を呈している。

日本有数の桜の名所・弘前公園=2015年4月

一方、青森県の西半分・津軽地方の中心地である弘前市は、新青森駅から約35キロメートル離れ、東北新幹線の沿線に位置するわけではない。

それでも、全国の2割を生産するリンゴや「日本一の桜」をうたう弘前公園、津軽三味線、弘前ねぷたまつりなど、個性的な産業・文化的資産に恵まれ、2010年12月の新青森開業時は、観光面で最大の恩恵を享受すると期待を集めた。

開業直後に東日本大震災が直撃

弘前市や経済界は開業に合わせて、まちと津軽平野一円を「舞台」に、市民と観光客双方を「劇団員」に見立てて、交流や感動を共有する観光コンセプト「弘前感交劇場」を提唱、まちづくりと観光、産業振興の融合を目指していた。

観光客が押し寄せるはずの最初の春を目前にした2011年3月11日、東日本大震災が発生。弘前市自体は深刻な被害を免れたものの、自粛・敬遠ムードの中で予約キャンセルが相次ぎ、一時は重苦しい空気が市内を覆った。だが、市やボランティアは、つながりの乏しかった岩手県野田村へ“押しかけ型”とも評された支援活動に着手し、弘前大学なども巻き込んで、今日に続く支援と連携をつくり上げた。

東北新幹線の運休や震災の影響は長期にわたったが、2012年にはおおむね例年通りの観光スケジュールが戻り、市民は胸に描いていた「新幹線のある観光シーズン」を迎えた。新幹線開業に合わせてスタートしたまちあるきツアー、市民が集うカクテル・パーティー、40種類以上のアップルパイの食べ歩きといった企画が好評を博した。

震災によって、新青森開業の前後を比較し、観光・経済面の効果を検証する作業は困難になった。しかし、弘前市が苦境を克服し、新幹線開業の恩恵を獲得したことに異論を唱える人はみかけない。では、弘前市にとっての「開業効果」は、観光振興だったのだろうか。

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